06.偽りのゼロ

「久しいな、枢木スザク」
 アヴァロンの独房。そこに拘束されたスザクくんが居た。
 ゼロと俺の姿を見て、スザクくんは眉を顰めた。
「ゼロ……貴様がユフィを」
「そうだな。私が殺した。あれは私の罪だ」
「君を殺せないのが口惜しいよ」
「スザクくん」
 思わず静止した俺を、ゼロが睨む。
 だがこれ以上ゼロに聞かせたくなかった。
 友達であった少年の誹りの言葉など。
「藤堂さん、どうしてあなたがそちらなんですか。ゼロは間違っているのに」
「では君はユーフェミアの策で果たして本当に日本人が救われると思っていたのか?」
「何だと?」
「行政特区。聞こえはいいが、逆に言えばそこでしか日本人で居られない。広いようで狭い区画に一体何人の日本人が住めるといのだ?」
 言われてみればそうだ。
「定員は必然と決められてしまう。そうして申請をしようとも受け入れられないものが現れ、彼らはいずれ暴動を起こす。それに他の日本人は?他のエリアのナンバーズはどうすればいい?ブリタニアは黙ってはいないぞ。最悪の結末は虐殺だ。ブリタニアはナンバーズを人とは思っていないのだからな」
 次々と吐き出される彼にわかりやすいように話される正論に、スザクくんは俯いた。
「だから殺したのか?」
「違う」
「じゃあなんで!」
「殺さなければ止めらなかった!!」
 俯いたゼロは強く拳を握り締めていた。

 しばらく黙っていたゼロだったが、ポケットから何かを取り出してスザクくんに投げた。
「これ、は……?」
「見覚えがないか?」
 血に汚れた小さな手帳。
 表紙を飾る名は―――
「ルルー、シュ?」
 スザクくんの顔がさっと青くなった。
「彼と君は友達だと聞いたが?」
「お前は彼も殺したのか!!」
「必要な事だったんだよ。"ルルーシュ・ランペルージ"……いや、"ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア"と言ったほうがいいかな?彼の死が」
 淡々と投げた言葉はどこか笑いを含んでいた。
 俺には自嘲しているように聞こえたが、スザクくんにそれはわからないだろう。
「安心したまえ、妹の命までは取っていないさ。それが契約だからな」
「契約、だと?」
「ああ。私と彼の最後の契約だ。そうだ、彼からは君に伝言もあったな。"スザク、俺の変わりにナナリーを守ってくれ"……だそうだよ」
「そんな……嘘だ……ルルーシュが……」

「枢木スザク、私を憎め。―――そして生きろ!」

 どくんっと心臓が跳ねた気がした。
 だが平静を装ってスザクくんを見た。
「……生きる」
 うつろな瞳は赤い虹彩を持っていた。

「行くぞ、藤堂」
「ああ」
 一度だけスザクくんを振り返ったが、彼は俯いていて、その表情はわからなかった。
 ただ肩が震えていて、泣いているのだと判った。

  *  *  *

「彼にギアスを掛けたのか?」
 アヴァロンの内部に与えられた部屋へ入ってすぐ、俺はゼロに問うた。
「前に、危うく殺されそうになった時にな」
 ゼロは笑いながら答えた。
「そうか」
「あそこで死ぬわけにいかなかったし、何より……言っただろう?死ぬならお前の手で死にたいと」
 ゼロは仮面を外し、口付けをせがんだ。

「何故あそこまでスザクくんに自分を恨ませる」
 ゼロは一瞬固まり、微笑んだ。
「あいつには幸せに生きてほしいんだ。"ルルーシュ"と言う存在がなくなっても。憎む相手が居れば、あいつはより強く生きることを望む」
「だからと言って君が傷ついては意味が無いだろう」
「私が傷つく?」
 きょとんとなって首を傾げた。
「あの程度では私は傷つかないよ」
 笑って、どこか遠くを見た。
「あいつを殺さなくてはいけないほうがもっと辛い」
「ゼロ」
 泣きそうに歪んだ笑みに、俺はゼロを強く抱きしめた。

 可哀想なゼロ。
 何故君ばかりが傷つくのだ。
 どうして俺たちは君に頼ってしまっているのだ。
 まだ幼さを残す少女には重すぎる願い。

「藤堂、キスを」
「ああ」
 ゼロはそれ以上を望まなかった。
 ただ抱きしめていろとそう言って、ことりと眠り始めた。
 俺は小さな身体を抱きしめ、最後の時を待った。

 ブリタニアまで、後僅か。
 少しでも彼女の心が休まりますように―――



⇒あとがき
 閑話休題。
 最後はラブラブ藤堂×ゼロ。そして可哀想なスザク。
 『黒の皇子』設定だとスザクにもっと酷い扱いをしそうだけど、こっちはまだ救いがある。
 そしてさりげなくナナリーを生きるための駒として布陣いたしました。
 彼女だけは守らなくちゃと言う思いが、ギアス以上にスザクを生かしてくれることでしょう。
 そして多分次がクライマックス。
20070417 カズイ
20080902 加筆修正
res

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