生命の責任

※R2、TURN24を予測していたかのような内容だったので思わずサルベージ☆。

「あ、藤堂将軍」
 楽しそうに話をしていた千葉が顔を上げる。
 一緒に居るのは月下の整備を任されている一人、井上だった。
 黒の騎士団で共に戦ってきた仲間である。

 俺も含め大多数の黒の騎士団のメンバーたちはこのキョウトに駐留し、合衆国日本の代表である皇神楽耶を支えるべく日々奮闘しているのだ。
 ブリタニアとは同盟を結ぶ形になったとは言え、隣は中華連邦。
 平和とはまだ少し遠い。それでも昔に比べれば随分と落ち着いただろう。
 誇りも文化も取り戻した日本は合衆国として日本人に限らず嘗てナンバーズと呼ばれていた人種も含め、多くのブリタニア人を受け入れている。
 平和の国。
 少しずつ近付いているのは確かだった。

「藤堂将軍、扇元副司令から連絡があったそうですよ」
「扇?」
「はい。千草さんっていたじゃないですか」
「ああ」
 ブリタニア人だが、事故により記憶を失い、扇に"千草"と言う名を与えられたらしい。
 褐色の肌に銀髪のおっとりとした雰囲気の女性だが、足さばきがどこか訓練されていた。
 ゼロに聞けば元軍人だと言う。
 だが詳しくは語らなかった。
「その千草さんがおめでたなんだそうです」
「おめでた?……ああ、子どもか」
「ブリタニア人と日本人の子どもってなんだか凄いですよね」
 井上は目を細め、嬉しそうに微笑む。
「カレンもすごく喜んでたらしいし、私、安心して思わず泣いちゃったんです」
「紅月?」
「気づきませんでした?カレン、ブリタニア人と日本人とのハーフなんです」
 見た目がブリタニア人、しかし名が紅月という日本人風だった。
 気づいてはいたが、触れてはいけない問題だと思っていた。
「なんの話してるんですか?」
 ひょこっと朝比奈が首を突っ込んできた。
「千草さんがおめでたなんだそうです」
「へぇ、やるじゃん扇さん」
「千葉さんと朝比奈さんはまだなんですか?」
 井上がニコニコと言った言葉に朝比奈が頬を赤く染めた。
「ま、まだって……」
「予定はない。まだ忙しいから子ども作ってる場合じゃ無いしな」
 あっけらかんと答えた千葉に、朝比奈ががくっと肩を落とした。
 相変わらず変わらないな、この二人は。
 思わず笑ってしまうと、朝比奈がキッと俺を見上げるようにして睨んだ。
「藤堂さんはどうなんですか!」
「俺か?」
 困った。
 まさか俺に話を振るとは……
「あ、その顔。いるんですね!?」
 井上の嬉々とした顔に、思わず俺は一歩後ろに下がった。

 後ろの方で、千葉が朝比奈の横腹に肘を打ち込んでいた。
「いた、という話だ」
 苦笑を浮かべれば、朝比奈もゼロとのやり取りを思い出したのだろう。口を押さえていた。
「すみません、藤堂さん」
「もしかして私、悪いこと聞いちゃいました?」
「いや、俺が捨てられただけだ」
「別に捨ててないと思うけどぉ?」
 居るはずのない人物の声に、思わず全員の視線が動く。
「久しぶりぃ。月下のことでちょっと顔出したんだけど〜……面白い話してるじゃないの」
 つかつかと歩み寄り、月下を見上げる。
「元気してるみたいねぇ」
 人ではなくKMFから見て行っているあたり彼女らしい。
「お久しぶりですラクシャータさん」
「久しぶりぃ。月下のこと大事にしてくれてるみたいね」
「はい」
 井上はラクシャータににこりと返した。
「捨てていないとはどういう事だ」
「そのままよぉ。あたしはあの子が本当に守りたいもの知ってるって言ったでしょぉ?」
 井上の空いた席座り込むと、彼女はキセルを口にくわえた。
 足を組み、優しげな眼差しで月下を見上げる。
「あの子、今何してると思うー?」
「さあな」
「戦争孤児を引き取ってる孤児院で勉強を教えてるのよぉ?ブリタニア人も日本人も、人種関係なくね」
 俺はふうっと息を吐き出す。
「……会ったのか?」
「まぁね〜。あたし、協力者だしぃ?」
 わざとらしくそう言い、キセルをぴっと俺に向ける。
「で、会う?」
「俺が会いたいと言ったところで会わせるつもりはなさそうだが?」
「あったり〜。だってあの子怖いんだもぉん。あたしが怒られちゃう」
 楽しそうにからからと笑う。
「でもぉ、あんまり辛そうだったから一応変わりに顔を見に来たってわけぇ」
「……元気にしているのか?」
 その問に、ラクシャータは黙り込んだ。
「最近やっと落ち着いてきたところだから、どぉともね」
 俯く視線がことの深刻さを語っているようだった。
「体力的にはどうにかさせてるけど、精神面はあたしだけじゃカバーしきれそうもないわぁ」
「……もしかして……おめでた、とか?」
「二人が言ってるあの子って男のはずだから違うよ」
「朝比奈!」
「あ」
 朝比奈は慌てて手で口を押さえた。
「ラクシャータ」
「ちょっと予想外ぃ。うっかり反応しちゃったじゃなぁい。どうするのよ井上ちゃぁん」
 困ったと言うようにラクシャータはため息をついた。

「一年と言ったときにまさかとは思った」
「あのねぇ、妊娠した後にピル飲んだところで無意味なのよぉ?ま、あの子の場合飲んだフリしてただけだけどぉ」
 髪を掻き乱しながら、ラクシャータが白状する。
「ちょっ、彼……女だったんですか!?」
「生物学上はねぇ。でもずーっと男として育てられてきてた。知ってたのはあたしとこの男だけぇ」
「うそ……」
「マジ?」
「皆には言っちゃダメよぉ。あんたたちの知ってるあの子は死んだんだからさ」
 井上だけが首を傾げる。
「ブリタニア皇帝みたいに禁止されてるわけじゃないから探す分にはあの子は許すでしょぉね。でもあたしはだぁい反対。あの子は"責任"がほしいわけじゃないんだからね」
 ラクシャータの言葉に、俺はただ拳を強く握るしかできなかった。
 俺にはまだ"覚悟"が足りないのだと思わされてしまったから―――



⇒あとがき
 相変わらずタイトルは適当ですが、なんとなく本編を予想してた気のある自分にワロタ。←笑ったのかよ!
20080606 カズイ
20080917 加筆修正
res

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -