意地悪
※妊婦の旅行は絶対ラクが反対するという可能性を忘れていた状況で書いたもの。
藤堂さんがいなくなってから一ヶ月。
最初はゼロを探しに行ったのではという噂があがったけど、二日目でサイタマの神崎の所に居るという話があがった。
神埼はいまや首脳グループの一人ではあるけど、その前に神崎道場という道場の道場主でもあった。
藤堂さんとは旧知の仲だったし、何故そこに身を寄せているのかは分からなかったけど転属の話が最近あがり始めたからそのことが関係しているのかもしれない。
と、思っていたのは本当についさっきまでだ。
ざわめきの広がりに玉城から聞いていた通り藤堂さんが来たんだと思った俺は月下から離れてざわめきの中心に向かった。
「藤堂さーん!」
ぶんぶんと手を振り近づくと、人ごみの中心、藤堂さんに手を引かれるブリタニア人の少女が居た。
年はたぶん紅月と同じくらいだろう。
凛とまっすぐ立ち、長いストレートの合間から覗く紫電の瞳がまっすぐ俺を射抜く。
どきっと心臓が跳ねたけど、俺には千葉さんがー!と必死に言い聞かせて首を横に振った。
「えっと、こちらは?」
藤堂さんに聞くと、藤堂さんはちらりと少女を見た。
「L.L.だ」
それ以上でもそれ以下でもない。
きっぱりと言い切った少女はどこかの誰かを思い浮かべさせられる。
そう、ゼロの愛人と噂されていたあの黄緑色の髪の少女―――C.C.に似ている。名前もだ。
だけどC.C.とはまた違う隠し切れない高貴な雰囲気がかもし出されているのは、その黒のような紫色のドレスの所為だろうか。
彼女は俺からついっと目をそらすと、月下を見上げた。どこか懐かしそうに。
「あ、そっちは……」
月下の方へと歩き出した少女に井上さんが慌てる。
素人に障ってはほしくないし、それに一応は今日は皇代表が戻ってくるからイロイロとまずい。
「大丈夫だ」
だけどそれを藤堂さんが止めた。
「でも……」
「彼女は正規ではないがナイトメアのパイロットだった。悪いようにはしない」
「ええ!?」
あの細い子がパイロット!?
驚愕に誰もが固まっている間に、彼女は迷いなく藤堂さんの愛機である月下の隊長機の前に立った。
じっと見上げているだけで何をするわけでもない。
でもなんで彼女はそれに迷いなくまっすぐ向かったんだろう。
「藤堂さま、そろそろお時間の方が……」
皇代表の秘書が居ることにその声で俺は気づいた。
「ル……L.L.!」
る?
藤堂さんは違う名前を言おうとして名前を言い換えた。
彼女は月下から目を離し、こちらに身体を向ける。
走ることは決してせずにゆっくりと歩く。
「では」
ふわりと髪をなびかせながら、彼女は静かに去っていく。
「あれ?」
ショールが落ちないようにと組んでいた手の所為で気づかなかったけど、彼女のお腹は確かに膨らんでいた。
彼女はちらっと振り返って小さくにこりとだけ笑った。
妊婦!?妊婦の護衛!?
そうなんですか!藤堂さん!?
聞きたいけどなんか聞いちゃいけない雰囲気に俺は一人頬を引きつらせた。
* * *
「見たか鏡志朗」
「お前、前から朝比奈だけからかって遊んでないか?」
会議の時然り、訓練の際然り。
「年上なんだがな……どうもからかいたくなる」
にやりと笑ったルルーシュに藤堂はため息をひとつついた。
朝比奈がゼロとして再会するのはまだもう少しだけ先のこと。
⇒あとがき
ちょっと書いてる途中で遊びたくなったのでやらかしてみました。
20071204 カズイ