姉妹の闇-Dark-
※『空から降る花』の設定のまま続いたボツ抜粋。
※この話のナナリーはルルが女の子だと知ってます。そしてさり気に黒属性です。
消息を絶っていたゼロからの突然の贈り物。
誰もが驚いたけど、それでも花を受け取った。
「アシュフォード学園はオープンな学園だから」
リヴァルのその理由には笑ってしまったのだけど。
「鏡志朗!」
ぱたぱたと、一人の女性が走ってくる。
走ったことで疲れたのか、藤堂さんの隣で立ち止まり、俯いて息を整える。
顔を上げた彼女は、帽子とサングラスで顔が隠れていて、あまり顔はわからなかった。
とりあえず、身長が高い。
「ユフィは泣かなかった?」
「よく眠っている」
ほらと藤堂さんは赤ん坊を少女に渡した。
「ふふ、ユフィはいい子ね」
「ユフィ?」
スザクが反応した。
その名は禁句だった。
スザクにだけではなく、ブリタニア人にも、日本人にも。
「ユーフェミアは私の初恋の人なの。同じ女の子だけど」
ふふっと笑う。
「それより、シュナイゼル陛下」
「ん?なんだい?」
「何故あなたが居るんです?コーネリア殿下まで」
「わ、私はだな……お前のことが気になって……」
「私、お二人に言いましたよね?会いに来たら嫌いになってやるって」
にこやかに言う。
もしかしてこの人も皇女、なの?
え?藤堂さんの奥さんがブリタニア皇女?
おかしくない?
「それに、ロイド伯爵。さっきセシルに会いしましたけど、仕事放棄してきたんですって?」
「あっは〜。ばれちゃったぁ」
「招待状に書かせていただきましたよね?仕事が終わったら来ていいって」
「だってぇ〜」
「だってもくそもねぇだろうが。あぁん?」
赤ん坊片手に人を脅す母親なんて始めて見たわよ。
「随分と口が悪くなったな」
「いやですわ。誰かさんのお陰でいい性格になっただけですわよ、コーネリア殿下」
おほほと笑う彼女に、一体誰が文句を言えよう。
怖い。
怖すぎるぞ、最強皇女。
「ふぇ……」
「ああ、ごめんユフィ。どこぞのプリン伯爵に私が切れたばっかりに」
「ひどぉい」
プリン伯爵?
「我が君のいけずぅ」
「……はいぃ!?」
私は思わず叫んでしまった。
ロイド伯爵の"我が君"という言葉が指す意味を知るのは、彼らを除いて私だけだから。
だから仕方ないんだろうけど……
「え?女……だって……え?……何が、どうなって……」
泣きやんだユフィちゃんを藤堂さんに預け、彼女はしゃがみ込んだ。
足元に落ちたままだった赤い薔薇を拾い上げ、彼女は私に微笑みながら差し出した。
「薔薇はブリタニアの象徴とも言える花だ。それでもその赤が一番お前に似合うと思ったんだ。受け取ってくれるかな?」
にやりと不敵に笑った彼女。
まったく逆の性別だと思っていた、私の守りたい人。
「本当に……?」
「黙っていなくなってすまなかった。カレン―――私の紅の騎士」
「っ……ゼロ!」
私はゼロに飛びついた。
もうなりふりかまってられない。
だって、あなたが生きていてくれたんだもの!
涙が溢れ出して止まらない。
「カレンは意外に泣き虫なんだな」
「だって……ゼロが生きててくれたから!」
「……ゼロ?」
「ゼロって女の子だったのぉ!?」
素っ頓狂なシャーリーの悲鳴。
「ゼロが、女の子?」
間抜けな声。
私ははっとしてゼロを背に庇った。
武器はないけど、それでも私はこの人の騎士だから、この人を守らなくちゃ!
「いい、カレン」
ゼロは私の肩を掴んで、前へ出た。
「私を殺したいか?枢木スザク」
「僕は……」
「だが残念だ。私はお前を殺せないし、お前も私を殺せない」
「……ゼロ?」
俯いたスザクが顔を上げた。
「憎めと言ったこともあったな。すべて忘れろ。お前はナナリーのお陰で生きる希望を見つけたのだろう?ならば彼女を泣かせるな!」
ぴしゃりとした言葉に、スザクは目を瞬く。
「……ナナリーを頼む」
ゼロはそれだけ言うと、藤堂さんの傍に歩み寄った。
ユフィちゃんを腕に抱き、藤堂さんの腕を引いた。
「行こう」
「彼女に会わなくていいのか?」
「会っても仕様がないだろう?」
自嘲気味に笑い、ゼロは歩き出す。
「ゼロ!待って……」
「カレン、時間がないんだ。君ならこの言葉の意味もわかるだろう?」
「私も連れて行ってください!あなたの進むべきが私の」
ゼロは首を横に振った。
「一年前、私は一人でこの子を生むつもりだった。誰に認められなくてもいい。男の子ならクロヴィスと名をつけて、女の子ならユーフェミアと名をつけて、最後の時まで傍にいようと思った。……だけどその後は?私のいなくなった世界にこの子を一人には出来ない」
ゼロはユフィちゃんを抱きしめた。
「私と同じゼロにさせたくなかった。この子は生きなくちゃいけない。私のように生まれた時から死んだ子どもになんてしたくなかった」
それはゼロの闇。
ずっと抱えていた、彼女の心の闇。
「でも今、この子には鏡志朗が―――父親が居る。家族がいる。私が捨てたものをこの子は手に入れてくれる。それだけで充分だ」
サングラスの下に涙が見えた。
はらりはらりと落ちる涙が、共鳴する。
「ゼロ……」
「最後に私はこの子と鏡志朗を捨てる。お願いだからそれだけにさせてくれ」
言えなかった。
この人は覚悟を決めていた。
「いやです」
小さな声がやけに静かに響いた。
「私はいやです」
もう一度。
人込みを掻き分けて、車椅子がこちらに向かって来た。
「ナナ、リー……?」
ニーナがその車椅子を押していた。
スザクはナナリーの登場に、硬直していた。
どうしていいのかわからないのは私も一緒だ。
「あなたはどうしてそうして一人で背負い込むんですか」
「どうして出てきた!なぜ大人しく隠れていない!!」
ゼロは怒鳴り声を上げた。
その腕の中でユフィが泣き出し、はっとなってユフィをあやす。
何故そこまでナナリーちゃんに反応したんだろう。
スザクも、ナナリーちゃんを隠すように立った。
ゼロから?いえ……
「ナナリー?お前も生きていたのか?」
目を見開き、コーネリア様が驚いていた。
「お久しぶりです。でもちょっとお二人は黙っててくださいね」
にっこりと微笑んだけど、それ以上言うなよって威圧感が言外に含まれていた。
コーネリア様とシュナイゼル様はこくこくと首を縦に動かして、皇族の威厳なんてまったくなくなっていた。
「もしあの日……お母さまが殺されなければ、世界は変わっていたでしょう」
お母さんが、殺された?
「だが未来は変えられない」
「そうですね。でもそうではありませんか?ゼロはあなたでなく、私だった」
「空論だな」
「でも本当のことでしょう?ゼロ……いいえ、お姉さま」
「違う。私はゼロだ。お前の姉ではない」
「ではなぜブリタニアの崩壊を望んだのですか?ブリタニア人であるあなたが」
「それは……」
「大切なものを守るためでしょう!?ならばなぜそれを最後まで守っては下さらないのですか!」
ぽろぽろと、閉じたままの目から涙が溢れている。
「一人に……しないで」
彼女も失った一人だ。
大好きだった兄を―――。
「お前は一人じゃない。スザクがいる」
「それはあなたが仕組んだことでしょう!?"ルルーシュ・ランペルージ"を殺し、それを利用してスザクに私を守れと言ったそうですね。そんなのスザクだから騙せることで、私は騙されません!」
「ナナリー!?っていうか騙すって……」
「そうでしょう、"ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア"!」
一陣の風が、悪戯に吹き抜ける。
飛び去る帽子と共に、深い紫の髪が風に靡いていた。
胸元まで延びた髪が白い肌に落ちる。
「私はゼロだ」
きっぱりと言い切り、背を向けた。
「お姉さま!」
「ルルーシュ」
藤堂さんが、そう名を呼んで、ゼロのサングラスを外した。
そこから現れたのは、涙に濡れた紫の瞳。
涙を拭ってやり、ユフィを預かった。
「ちゃんと向き合ってやれ」
「鏡志朗」
怯えたような声。
「ルルーシュ……?」
リヴァルが信じられないと言うように声を発した。
ねぇ、誰が知ることが出来たと言うの?
私たちと同じように学校に通っていたただの高校生が、実は女の子で、本当は皇女で、テロリストの親玉だったなんて。
⇒あとがき
書きながら泣いちゃったぜ☆のつぎはぎ。
もし光明編08がこの設定で完成していたら、別路編はまずありませんでしたね。
ぶっちゃけこれとは別バージョンのナナリーの台詞は打ちながら自分が傷つくというマジ泣きの涙腺崩壊現象が起こって結局書き終わってないまま残骸が残ってるんですよねぇ……公開はしない!
20071220 カズイ