生きたゼロ

 白銀の髪に透き通るような白い肌。
 整った顔立ちを持つ目的の少年はソファに座り、両腕を組んで目を伏せていた。
 一見すれば考え事をしているように見えるだろうが、彼はこれでしっかり僅かな時間も無駄にしないように居眠りをしている。それも間違いなく熟睡であろう。
「兄上!」
 甲高い少女の声に呼ばれ、少年の睫毛がぴくりと震える。
 ゆっくりと上げられた顔には双眸を彩る鮮やかな紫苑が煌めいていた。
「やあ、神楽耶。久し振りだね」
 今まで熟睡していたとは思えないほど爽やかな笑顔を浮かべ、少年は答える。
「すぐ来ると言いましたのに寝てましたわね?」
 ぷうと頬を膨らませる少女に少年は優しげな笑みを浮かべながら少女の頭を撫でた。
「ごめんごめん」
「兄上は本当に居眠り上手ですこと」
 棘のある言葉を放ちながら少女は少年の隣に座った。
「だからごめんってば」
 笑みを困ったようなものに変えながら謝罪する少年はその容姿からも理解できるとは思うが、ブリタニア人のそれである。
 対する少年を兄と呼んだ少女は黒髪に黒い瞳、黄色人種特有の肌を持つアジア人だ。そして名前からわかるとおり、彼女は日本人だ。
 彼女―――皇神楽耶はまだ年若いながらも合衆国日本を代表する女傑である。
 公式では天皇家最後の血筋にして最後の天皇の娘であり、従兄弟の存在があっても兄弟は存在しないはずである。
 それなのに少年を兄と呼ぶのは、彼が神楽耶にとって理想の兄そのものな存在であったからだ。

「で、今日は何の用かな?忙しいって言うのに俺に会うためだけに時間を割いたわけじゃないだろう?」
「忙しいと言っても私のそれはゼロに任された役の一端。あの頃のゼロに比べれば些細なことですわ」
「ゼロと比べてはいけないよ、神楽耶」
 数ヶ月前にブラックベリオンと呼ばれる世界的に有名な事件を起こし、合衆国日本の立役者となった正体不明のテロリスト・ゼロを神楽耶はいたく気に入っていた。
 自らをゼロの妻と名乗り近づいたこともあった。
 だがそれもいつからか言わなくなった台詞であるが、その理由を少年は聞いてはいない。
「私としたことが!いけませんね、本題を忘れるところでした」
「はいはい。なんですかお姫さま」
「兄上にお願いしたいことがあるんです。今度コーネリア殿下とお会いする席にSPの一人として同席してくださいませんか?」
「コーネリア殿下に?」
 はて、そんな予定あっただろうかと少年は首を傾げる。
「一応表向きは極秘会談となって知っていますでしょう?でも知っているのは上層部の人間でも一握りですのよ。それに、実際に約束をしているのはコーネリア殿下ではありませんしね」
「は?」
「兄上にはちゃんとお話しますわ」
 にっこりと花が綻ぶように微笑んだ神楽耶はまっすぐ前を向くと話を始めた。
 それはとても長い、一人のブリタニア人の少女の生きた物語だった。




⇒あとがき
 ライ視点のプロローグです。
 ロロ視点のプロローグは02が書き終わってからかなぁ(汗)
 このお話の中でのライはルルーシュとの共通点を増やすために瞳の色を紫に設定しております。
20080722 カズイ
20080904 加筆修正
res

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