有色のゼロ

「……あ」
「どうした?」
 街を歩いている途中、不意に花屋の前でルルーシュが足を止めた。
 暖かい中ではなく、外の寒い空気の中に並べられた白い花の植木鉢。
 その花の名前を知らないが、藤堂はルルーシュが指差した花を見つめた。
「何という花だ?」
「スノードロップだ。日本にも前からあるだろう」
「そうなのか?……俺ははじめて見たな」
「実物を見ることはそうだろうな。私も実物は一度しか見たこと無い」
「珍しい花なのか?そうでもないとは思うがな。別称は色々ある『雪の耳飾り』、『雪の鐘』、『聖母の小蝋燭』」
「……やけに多いな」
「日本でさえ『雪の花』、『待雪草』等と言う名があるんだ。無理は無い。最近ではスノードロップの名前が一般的だがな」
 じっと見つめるルルーシュの表情は騎士団の頃浮かべていた寂しそうな顔だった。
「……この花が好きなのか?」
「母がよく話をしてくれた。スノードロップの伝説をな」
「伝説?」
「……神が世界を創ったとき、雪には何も色が無かったんだそうだ。雪はそれを不満に思い、神に色をつけて欲しいと頼んだ。すると神は花たちに色を分けてもらうよう雪に言った。だが花たちは冷たい雪に自分たちの色を分けてはくれなかったんだ」
 ルルーシュは懐かしそうに語りながら、鉢に入った花をちょんとつついた。
「悲しみにくれる雪にたったひとつだけ、スノードロップが色を分けてくれたんだ。だから雪はスノードロップを大切にしているんだとな」
「お前の母もその話が好きだったんだろうな」
「多分な。私も一番この話が記憶に残っているし……最近よく思い出す」
「それは……」
 ゼロだった自分を思い出すからか?
 鏡志朗はそれ以上は言わなかったが、ルルーシュは察して苦笑を浮かべた。
「それもあるかもしれない。だが少し違う。今の雪にスノードロップがいたように、私には鏡志朗がいる。この子もいる」
 優しくルルーシュは腹部を撫でた。
「私はもうゼロじゃないんだ」
 微笑んだルルーシュは前よりも確かに落ち着いていて、大人びていて、母親の顔をしていた。

 ルルーシュはスノードロップの鉢を持ち上げた。
「買うのか?」
「ああ。ダメか?」
「構わないが、配送にしてもらおう。まだ買い物の途中だ」
「……それもそうだな」
 ふふっと笑い、ルルーシュは店の中へと入っていった。
 店員らしい女性は配送を願い出たルルーシュに笑顔を見せて応対する。
「鏡志朗」
 不意に呼ばれ、鏡志朗はルルーシュの方を見た。
「もう一つ選んでくれ」
「二つも買うのか?」
「一つはラクシャータに贈る。日ごろの礼も兼ねてな」
 贈られてきた鉢植えを片手に銀髪の男に優越感を覚えるラクシャータが用意に想像できる。
 思わず眉間に皺を寄せた鏡志朗に気づかず、ルルーシュは鏡志朗に「早く」と急かした。



⇒あとがき
 不意にスノードロップの話が書きたくなったのですが、なんか微妙……←いつものことだ
 本編更新しようぜ、私orz
20080111 カズイ
20080904 加筆修正
res

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