04.魔神と奇跡

「んっ」
 誰かに起こされたわけでもなく、自然と目が覚めた。
 ぼんやりとした頭で誰かの腕の中にいることに気づく。
 自分がこんなに自然体のまま安堵出来る腕の持ち主など藤堂鏡志朗以外には存在しない。
「起こしたか?」
「いや、起きた」
 欠伸をひとつして、時計を確認する。
 今日は急いで学園に戻る必要はないが、ナナリーを心配させているかもしれない。そのことだけが胸を痛ませる。
「まだ時間がある、もう少し寝ていろ」
「いや、これ以上寝ると多分起きれない」
 首を横に振り、藤堂の胸にすり寄る。
 この男はとても暖かいと思う。
 望めばその温もりを分けてくれ、大きくごつごつした男らしい手で優しく壊れものを扱うかのように頭を撫でてくれる。
 見た目とは裏腹なその手の動きがひどく胸を締め付ける。
 これが恋なのだとわかっているが、この想いを打ち明けるつもりもない。
 親子ほど年の離れた子どもの想いなど、藤堂には重荷だろうし、何よりこうして抱きしめてくれるのは俺が傷ついているからだ。
 そこに愛があるかなど俺は知らない。
 きっとただの同情だ。
「……雨か?」
 ふと耳に入った音に耳を傾ける。
 やはり雨の音のようだ。少し激しい雨のような気もする。
「少し前から降り始めたみたいだが、しばらくすれば止むだろう」
「そうだな……ニュースでも雨は降るとは言っていなかったし」
 記憶を探りながら、欠伸をもう一つ。
「ゼロ」
「なんだ」
「前から気になっていたのだが、君が女だと言うことはC.C.も知っているのか?」
「っ」
 脳裏によぎるのは、バスルームに無断侵入してきたC.C.の驚いた顔だ。
 俺の胸を見て信じられないと言う顔で「女?」と呟いたのだ。
 小さくて悪かったな!と今の自分ならば叫べただろうが、あの時は突然のことに頭がついて行かなかったし、結局丸め込まれたようにも思う。
「知っているんだな」
「あいつが勝手にバスルームに入ってきたんだ」
「用心が足りないな」
「使用中で鍵を掛けているはずの私室のバスルームに無言で侵入するのはC.C.くらいのものだ」
「妹姫はその……知らないのか?」
「知らない。目が見えていた頃は俺は男だからと言って母と一緒に丸め込んでいたし、目が見えなくなってからは当然、な」
「そうか」
「知っているのはC.C.とお前以外は後二人くらいだな」
「その人物は?」
「アッシュフォード学園の理事長でヴィ家の後見人だった男とその孫娘だ。彼は俺にとっては父親の代わりのような人だ。年齢的には祖父、だろうがな」
 不意に藤堂は頭を撫でていた手を離し、俺の身体をそっと包み込むように抱き締めた。
「藤堂?」
「君は裏切りを恐れているのか?」
「……誰の?」
「スザクくんを語る時と同じような顔をしていた。俺は君を裏切らない。恐らくC.C.もだ」
「わかっている」
「だったらそんな顔をしないでくれ」
 俺を抱きしめる腕がほんの少し強くなり、俺は目を細めた。
 執着しているようで、俺を愛してはいないであろうこの男をひどく愛しく感じる。
「……わかった」
 優しすぎて、残酷な男だ。



⇒あとがき
 微妙にすれ違っている藤堂とルルーシュにしてみました♪
 一応次で終わりの予定です。
20080511 カズイ
20080903 加筆修正
res

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