02.閃光と魔女

「私が、ナイトオブラウンズと試合を?」
 きょとんと首を傾げると、執事は困ったように頷いた。
「皇帝直々のご命令でございます」
「そう、なら仕方ないわね。いい機会だと思ってやらせていただきましょう」
 ふふっと笑うとさらに執事は慌てた様子を見せた。
 ルーベンさまから預かっている使用人たちは私にとっても良くしてくれている。
 KMFの実験もあると言うのにエリア制圧のために戦地に行って離れていた私をこうして温かく迎えてくれるほどよ。
 ああ私はなんて幸せなんでしょうと思わずにはいられない。
 今この瞬間も世界では誰かが誰かの命を奪い、誰かが新しい命を生んでいる。
 そんな中で満足にご飯を口にでき、笑い会える。
 幸せだからこそ、長続きはしないんでしょうね……
「是非とお返事を伝えてくれるかしら?」
 そうお願いして、私は部屋へと戻った。


「遅かったな」
「あら、これでも早く戻ってきたつもりよ?」
 ふてぶてしい態度でベッドの上を陣取る少女―――C.C.に私は胸を張って微笑んだ。
「威張ることではない」
「まぁ、そうだけど……私がいない間の食事はどうしたの?」
「食事をごちそうすると言ってくれたのでな、おごらせてやった」
「はいはいまたルーベンさまをいじめたのね。やめなさい、ルーベンさまはとってもお優しいんだから」
「お前の口からルーベンの名を聞かない日はないな」
「だって好きだもの」
「ついにお前が色恋を語る日が来たか」
「茶化さないで。人として好きなだけよ」
 私はそう言ってC.C.の隣に座った。
「だって私、恋も愛もわからないもの。たぶんきっと、この先もずっと」
「お前がまだ若いだけだ」
「それはC.C.の基準。私はもう成人してるのよ?」
 ぽふんと柔らかなベッドに身体を預ける。
「でもわからない」
「……いずれわかるさ、マリアンヌ」
 髪を撫でるC.C.の手が優しい。
 珍しいこともあるものだと思いながら、私はそのまま目を閉じた。

 皇帝の考えが分からない。
 でも、見えたのよC.C.。

「私、皇帝に会うわ」
「そうか」
「ねぇC.C.。もし私の子どもに会ったら……守ってあげてね」
「皇帝に嫁ぐのか?模擬戦の話じゃなかったか?」
「ええそうね。でも見えたのよ、C.C.」

 珍しいほど鮮明に。
 たくさんの断片的な光景。
 模擬戦に勝利した私は后妃となり、男の子と女の子を産む。
 だけどまだ二人が幼いうちに私は何者かに殺され、娘は足を不自由にし、視界を閉ざしてしまった。
 二人はどこか異国の地にたどりつき、そこで一人の男の子と出会う。
 だけど戦争が二人を引き離す。
 二人はルーベンさまの下で皇帝と無縁そうな暮らしをし、そこでまたその男の子と出会う。
 C.C.と出会い、契約して力を手に入れる息子。
 息子は仮面を被り、ブリタニアに反逆。
 そして―――皇帝を撃ち殺す。
 私そっくりの、私にないアメジストの瞳をもつ少年―――ルルーシュ。

 ああ、でも殺された皇帝は笑っていたわ。
 笑って死んでいった皇帝は、たぶん私と似ていると思うの。

「あの人は私と一緒。きっと愛を知らないわ。恋も知らないのでしょうね」
「……だろうな」
 あの男も王の力を持っているから、とC.C.は告げる。
「わかってるわ」
 だからあなたとはここでさようならなのよね?C.C.。
「C.C.、あなたの願いは私の息子が叶えるわ。だから……」
 さようならと告げようとした私の唇にC.C.の指が触れる。
 まるでその言葉は言うなと言うように。
「またな、マリアンヌ」
 にやりと笑い、C.C.は部屋を出て行った。


 王の力が私たちを孤独にすると言うのなら、王同士は暖めあうことが出来るのかしら?
 出来るなら、あの冷えた悲しい瞳を温めてあげたいと思う。
 そう思うと無性に胸が痛んだ。
 この痛みの意味を、私はまだ知らない―――



⇒あとがき
 一瞬C.C.にキスさせようかと思いましたが、さすがにギアスでGLはやめときました。
 今度はC.C.視点のお話に続きます。
20080509 カズイ
20080903 加筆修正
res

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