眠りのゼロ
ガウェインを降り、ラクシャータと二三言葉を交わした後、藤堂の方を見る。
藤堂はその視線に気づくと腕を組んで視線をわずかに落とした。
それが決まりの合図になったのは一体何回目からだっただろうか。
マントを翻して一人先に部屋に戻り、C.C.にはピザを餌に先にクラブハウスへと帰させる。
最初は文句を言っていたC.C.だったが、それが情事のためだと知るやピザは一枚でいいとにやりと笑って出て行ってくれるようになった。
感謝はしているが毎回一枚も結局懐が痛いものだ。
マントを外し、仮面を外す。
ほっと息をつくとなんだか身体がずんと重く感じた。
たまに学校に現れるスザクを見て内心イラつきながらも笑みを作って彼の盲目的な話の相手をする。
あいつが白兜のパイロットだったと知ってなお、俺は―――
「ゼロ」
扉が開き、藤堂が来たことがその掛けられた声で知れる。
この部屋はC.C.と藤堂以外簡単には入れないようにパスワードを掛けてある。いざと言う時のために。
藤堂は扉が閉まるのを確認することもなくまっすぐ俺の元へと歩いてきたかと思うと俺の身体をいきなり近くのソファに押し倒した。
「藤堂!?」
いつもなら真っ先にキスをして、それから面倒だからって一緒にシャワーに行って……
「すまん、ちょっと今日は……」
いつもより皺を寄せた眉間で、細められた色情めいた視線で見られても、俺は困惑したままようやく重ねられた唇を受け入れるだけだった。
その日は珍しく、乱暴に抱かれた気がする。
* * *
気がつくと身体は綺麗に清められていて仮眠室のベッドにうつ伏せにぐったりと身を預けていた。
確かソファの上で二回した後シャワールームに行ってまた一回して清めながら……ああダメだ、その辺りから記憶が酷くあやふやだ。
重たい身体を無理やり動かしてくしゃりと髪をかき交ぜる。
気絶するまで抱かれるなんて最初の2〜3回くらいまでだったはずだ。あの後はできるだけ藤堂がセーブしてくれていたし意識を飛ばしてもほんの数分程度くらいだったはずだ。
回数だって自分に体力がないと考慮して少なかったはずなのに。
近くの時計を確認すれば確実に部屋に戻ってから六時間は経っていた。もう一回りしていなければの話ではあるが。
本来ならもうクラブハウスに戻るためにここを出なきゃいけない時間だ。
起き上がろうとすると、腰にぴしりと痛みが走ってすぐにベッドに逆戻りしてしまった。
「起きていたのか」
仮眠室に入ってきた藤堂が心配そうな顔でベッドに歩み寄る。
「昨日はすまない……その……どうも抑えが……」
視線を泳がせる藤堂がどこか可愛くみえて、俺はくすりと笑った。
「今までがよく我慢していたほうなんじゃないか?」
「ゼロ、あまりからかってくれるな」
不機嫌そうに藤堂はそう言うと俺の髪に手を伸ばし、見るなと言うように撫でながら視界を上手く塞ぐ。
「それとも、何かあったのか?」
図星なのか、藤堂の手が一瞬止まる。
「…………………なんでもない」
絶対になんでもなくないんだろうが、その長すぎる間に俺は深くは聞かないことにした。
「ゼロ、君は以前本国から来る前に髪を切ったと言っていたが……長かったのか?」
誤魔化しかは知らないが、髪を梳きながら藤堂はそう聞いてきた。
「男が髪を伸ばしても問題はなかったからな。胸元あたりくらいまでは伸びていたかな。いつも結んでいたが」
「そうか」
少し残念そうな声音でそう言うと、藤堂は俺の髪に指を絡ませた。
大きくて硬いこの手が俺は好きだ。
俺が望む限り優しく撫でる手は変わらないだろう
でも、こいつから求めるなんてことは殆どない。
今日みたいに暴走するなんて言うのも初めてで、正直驚いたくらいだ。
この事をうれしく思い、同時に寂しく思うことは罪だろうか?
「……早く、優しい世界が欲しい」
そのためにはまだまだやらなくてはいけないことは山積みだ。
それでも今は再び襲い来る眠気に負けて目を閉じる。
ナナリーには明後日の休日にしっかり付き合ってそして許してもらおう。
言い訳をあれこれ考えながら俺は優しく撫でる手に身を任せて眠りについた。
「―――君のためにもな」
藤堂がそう呟いた気がするのは俺の気のせいだったのかもしれない。
⇒あとがき
藤堂さんの愛が伝わらないww
通じ合ってるのにすれ違う2人を書くのがとっても楽しいです。←おい
『孤独な王』04と微妙に似通ってるのはこれがそのボツから生まれたからですww
20080607 カズイ
20080903 加筆修正