優しきゼロ
ゼロと二人きり。
とんでもなく気まずい空気の中に俺はいた。
事の起こりはゼロの思案気な様子からだった。
耐えかねたカレンがその理由を聞いた。
どうやらゼロには困ったことがあるらしい。
しかもそれは少々やっかいで、男性に頼みたいのだと言う。
ディートハルトが立候補したけれど、ブリタニア人だからと却下された。
そこで白羽の矢が立ったのが俺だった。
ゼロが困っていて、俺で役に立てるのならと思った。
けど、「ほんのちょっと経歴に傷がつくかもしれない程度だ」と言われて頷く馬鹿がいるだろうか。
思わず玉城を推薦したが、玉城にはあっさり断られた。
助けを求めて周りを見れば、藤堂さんとディートハルトと玉城以外の男全員が一斉に視線を逸らした。
しょうがないから俺は藤堂さんの方を見た。
だけどゼロはそれを許さなかった。
正直理由はわからないけど、仲がいいみたいだから俺なんかより藤堂さんがやればいいのに。
「扇」
ちょいちょいとゼロが俺を手招きした。
俺は嫌な予感を拭えないままゼロに歩み寄り、耳を貸した。。
「お前にしては趣味がいいな。彼女―――"千草"」
「な、なんでゼロがそれを!?」
「いや、たまたま目撃した人物が私の知り合いでね」
ゼロは楽しそうに笑うように言った。
一体どこで見られたって言うんだ。
しかも名前まで。
「お前が何考えて接触したのかも言ってやろうか?この私が」
「うっ……」
俺が彼女を拾い匿っている理由まで知ってるのかよ。
「まったく……ちゃんと調べて手を回しておいた。今度騎士団(ここ)につれて来い。あそこに一人置いておくほうが危険だ。お前はあそこがゲットーだと言う自覚が足りないようだな」
「うっ」
グサグサと胸に突き刺さる。
ゼロの言い分は最もだ。
「さて、どう答えれば利巧か、理解したな?では、今すぐ手伝……ではないな、協力してくれ」
「な、何を……」
「……それは後で話そう。朝比奈」
「は、はい」
なんで俺?と言う風な返事をした四聖剣の朝比奈さんにゼロが耳元に何かを言った。
長い。
「ふえぇぇ!?」
朝比奈さんは顔を真っ赤にして、焦る。
隣にいた藤堂さんと目が合うと、藤堂さんは目を逸らした。
「……すまん」
「藤堂さぁん!!!」
朝比奈さんは顔を更に赤くして藤堂さんを責めた。
何言われたんだろう。
多分藤堂さんが原因のなにかを……
「行くぞ、扇」
「あ、ああ」
颯爽と歩き出したゼロの後を俺は追いかけた。
* * *
二階部にあるゼロの部屋に入ると、ゼロは封筒を一つ取り出した。
「これは?」
封筒には一箇所だけ四角い穴があいていた。
「そこに名前を書いてくれ。それだけでいい」
ゼロは椅子に座り、ペンを差し出して来た。
「……ゼロ、これは一体なんなんだ?騎士団に関係あることなのか?」
ゼロに不信感を持っているのはばれているんだ。
俺はやけになってそこまで聞いてしまった。
「騎士団に、か……」
自嘲気味にゼロは笑った。
「関係はない」
「だったら」
「"千草"」
ゼロが俺の言葉を遮った。
脅しじゃないか。
「……昔、ブリタニアに一人の少女が居た」
淡々と、ゼロは語り始めた。
「高い身分に生まれた少女は、ここが日本と当たり前のように呼ばれていた頃から日本に辿り着き、そこで一人の男と出会った。……戦乱の渦中に放り込まれた少女は、七年後その男と偶然にも再会した」
「何の話をしているんだ?」
「まぁ聞け」
くつりと笑い、ゼロは足を組んだ。
指先でくるくるとペンを弄びながら、言葉を続けた。
「少女と男は関係を結び、その結果子を成した。しかし少女は男に告げる気はなかった。なぜなら少女はブリタニア人で、男は日本人だからだ」
「……それで?」
「少女は子どもを産む決意をした。しかし彼女は未成年だ。保護者の同意書がいる。残念ながら私は日本人ではない。彼女は医者に相手は日本人だと言ってしまっている」
「それで、俺か」
「ああ」
ゼロが日本人ではないというのは周知の公然。
ディートハルトの協力を拒んだのも日本人ではないから……
あの話し合いの場には男はディートハルト以外日本人だったからディートハルトだけを拒めば後は誰でも良かったのだ。
たまたま俺が"千草"と言う弱みを握られていたから。
あれ?でもなんで藤堂さんはダメなんだ?
「それに、お前ならいいかと思ったんだ」
「藤堂さんじゃなく?」
ゼロは黙り込み、ペンを俺に投げてきた。
「経歴が軍人だとバレバレだろう」
取ってつけたような言い訳だなぁ。
ま、いいか。
「協力するよ、ゼロ」
ゼロとその少女の関係は知らないけれど、俺は笑って同意を示した。
優しいんだな、ゼロって。
⇒あとがき
見当違いなボケボケ扇さんです。
これで朝比奈視点の『千里眼のゼロ』の意味がわかったはず!
20070501 カズイ
20080903 加筆修正