慈しむゼロ
仮面をつけているが故に、ゼロは二階部にある私室にしている部屋で食事をとる。
これはあたしが来る前から当たり前だったこと。
あたしがこの黒の騎士団に来たのはキョウトのお偉い方の指示。
そしてKMFの実戦データが取るため。
だからその大将が妖しい仮面をつけていようがぜーんぜん構わないつもりだった。
けど、ゼロを始めて見たときについ昔の癖でゼロという人物を見てしまったのよねぇ。
ゼロがあたしの昔の話をしたからね、きっと。
凛と立つその姿や、優雅な動き。黒の騎士団を引っ張っていくその力。
巧みな戦術を考える頭脳。
それらに隠されたのは未成熟な身体。
背が高い割りに線が細い。
ゼロは恐らく未成年。表では学生生活をしているのかもしれない。
付き合っていくうちに、度々疲れた様子を見せていたけれど、すべてすぐに切り替えて周りに偽る。
* * *
「ねぇ、あんたちゃんと食べてる?」
思わず聞いてしまった。
たまたま二人きりだったから。
何時もは紅蓮弐式のパイロットだとか月下のパイロットだとか誰かしらが傍にいるからこんなこと滅多になかった。
一応大将だしさ、言っておかなきゃと思うわけよぉ。
仮にも大人としては。
「……食べている」
「睡眠は?ちゃんと寝てるぅ?」
あ、黙り込んだ。
「……学校に行ってる?」
ぴくっと書類を握っていた手が震えた。
あー、やっぱり正解。
「安心しなさいよ、だぁれも気づいちゃいないから」
「……そうか」
安心したような声音。
一応辺りを気にして口にした。
「あんたは必要最低限KMFに乗らないほうがいいわよぉ」
「なんのことだ?」
「聞き流してもいいわよぉ?」
けど、今のあなたは聞き流せない。
「あたしは女で、元は……思い出したくないけどあれでしょぉ?シックスセンスくらい働くわぁ。まぁ、もちろんこれもあたしだけ〜」
だって皆ゼロが男だと思い込んでるんだもの。
まぁ、ゼロが中性的な体つきで、男として振舞う仕草があまりにも完璧だから仕様がないけどねぇ。
でも、あたしは騙せないわよぉ?
「少しでも体調が悪いと判断したらまず乗らないことね」
「考慮する」
おろさないんだ。
この戦況下、ゼロが抜けることは致命的。
だからおろすかと思った。
ブリタニアに強い反逆心を抱くゼロだからこそ―――
「少しでも睡眠取らないと、今は人より疲れる時期よぉ」
「前は平気だったんだけどな……そうか、それが原因か」
そっと腹部を押さえる仕草。
それはゼロと言うより、普通の少女。
確かに仮面をつけた怪しげな姿ではあるけど、背を丸め愛おしげに摩る姿はとてもテロリストの親玉とは思えない姿だった。
「……生むの?」
「ああ。勿論」
慈しむような、母親の声。
仮面の奥の顔はわからないけれど、若くして祖国に反逆し、その最中に人を愛し、子を授かり、生もうと決意するなんて……
あたしには理解できないなぁ。
でもま、
「協力は惜しまないわぁ」
「助かる。ありがとう、ラクシャータ」
ところで相手はやっぱり月下の―――
⇒あとがき
ラクシャータって難しいね!(言い逃げ)
20070423 カズイ
20080903 加筆修正