08.別れのゼロ
ブリタニア皇帝の死からもうすぐ一年。
日本はブリタニア傘下の同盟国という形を取った。
他のエリアも少しずつではあるけれど、日本と同じ形を取り始めた。
もしあの時ブリタニアを落とさず、日本をブリタニアから解放しただけだったら、日本はEUや中華連邦に支配されていたのかもしれない。
"日本にはゼロがいたから、だからエリア11なんてもう呼ばれない"
"もう虐げられることはないのだ!"
"ゼロは奇跡を起こしてくれた!"
誰もがそう思っている。
何の疑いもなくゼロが日本人だと思っているから。
だけどゼロはブリタニア人で、しかもブリタニア皇帝の息子だった。
結局その正体はもちろん、素顔すらわからず仕舞いだったけど。
ディートハルトはもちろんのこと、私も扇さんも他の黒の騎士団だった人たちにそのことは言わなかった。
藤堂さんはどうも始めから知っていたみたいだった。
仲がよかったのだから当然だろう。
ここまで言えば判ると思うけど、あの日、ゼロは一人でいなくなった。
藤堂さんが無言で壁を殴っていたのがやけに印象に残っている。
あの二人はただ仲がよかっただけではなかったのかもしれない。
私では間に入れないほどの何か―――
……いや、無粋な推測はよそう。
私はカレン・シュタットフェルトから紅月カレンに名前を改めて、堂々と日本人としてアッシュフォード学園に通っている。
もう病弱の猫は被っていない。
オープンなアッシュフォード学園はハーフの私を受け入れてくれていたし、なにより猫を被っていたのはハーフを隠すためだったと周りは思い込んでくれたので、これは助かった。
ただ、生徒会会長ミレイ・アッシュフォードだけは私がそれ以外で猫を被っていた理由をこっそり尋ねてきた。
彼女には隠す必要はないかと思い、周りに明かさないことを条件に黒の騎士団にいたことを話した。
ミレイさんはそれを聞いたとき、悲しげに目を伏せて「そう」とだけ言った。
仕方が無いことだった。
彼女が溺愛していた副会長ルルーシュ・ランペルージは戦乱の最中に命を落としたのだから。
何者かに殺されていたルルーシュを発見した人が誰かに知らせようと外に出たところ、建物が崩壊し燃えさったと言う。
遺体のない葬儀はシャーリーのお父さんの葬儀の時よりも悲壮であった。
友人の死に嘆いたリヴァル。
信じられないという様子だったシャーリー。
ただ困惑するしかなかったニーナ。
そして誰よりも冷静ではあったけど、壊れた人形のようになってしまったスザク。
彼の妹のナナリーちゃんはただ静かに受け止めていた。
ナナリーちゃんと言えば、葬儀の後思い切った行動に出た。
「スザクさん、ちょっといいですか?」
「……うん」
「少し屈んでいただけます?」
「……うん」
優しい彼女だ、悲しむスザクの頭をそっと撫でるのかもしれない。
誰もがそう思って悲しくも優しく二人を見守っていた。
だがしかし、次の瞬間、ナナリーちゃんは思いっきりスザクの頬をひっぱたいた。
「枢木スザク!あなたは生きているのですよ!だったらお兄さま分まで私を守りなさい!!」
それは主にして恋人のユーフェミアに次いで大事な友人だと言っていたルルーシュを失ったスザクにはいい薬だった。
光を取り戻したスザクは呆然としつつも、「はい」と返事をした。
あれには皆が驚いた。
穏やかで、物静かな少女が怒声を上げたのだ。
驚かないほうが可笑しい。
元々ナナリーちゃんはスザクが好きで、でもユーフェミアの騎士になって諦めようとしていたらしい。
ユーフェミアが死に、ことさらに胸に秘めていた上に兄の死。
咲世子さんがいたけど、ナナリーちゃんも一人は耐えられなかったのかもしれない。
スザクの方は立ち直ったという事ですぐさま軍に拉致されて白兜、じゃないやランスロットの実験に借り出されている。
各言う私も主に放課後にではあるけれど、紅蓮弐式から新たに進化した紅蓮可翔式の起動テストなど付き合っている。
ラクシャータ曰く、アレのパイロットは私だから。
ガウェインはブリタニア本国でシュナイゼル様が大事に預かっている。
いつゼロが戻ってきても良いようにと彼は笑っていた。
彼もゼロの行方は知らないらしい。
というよりも調べたら嫌いになると脅されたらしい。
兄馬鹿というかなんというか……
ゼロ、あなたはどこにいるんですか?
私はあなたが何者であろうとあなたの騎士です。
もうすぐ一年。
あなたが行くべきところへ私もついて行ってはダメですか?
「……カレン!」
「うわっ!?」
私は手に持っていたままだった書類をばさっと取り落としてしまった。
「あちゃ〜」
「大丈夫ですか?カレンさん」
「大丈夫よ」
高等部に上がって生徒会に入ったナナリーちゃんが心配そうに声を掛けてくれた。
私はそれに苦笑しながら返事を返し、落ちた書類をかき集める。
「ぼーっとして、どうしたのさ」
「ちょっと考え事」
「考え事ぉ?学園祭はもうすぐなんだぜ?大丈夫か〜?」
「大丈夫よ」
「手伝うよ」
「……ありがと」
微笑み、スザクが手伝ってくれた。
机の上で確認していると、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。
「はい?」
誰だろうと思いながら、扉に歩み寄るリヴァル。
「どうしたの?咲世子さん」
「カレン様宛てにお花が届いていましたのでお届けに」
「私?」
私は咲世子さんの腕の中にある大きな赤い薔薇の花束を受け取った。
赤い薔薇って……
「真っ赤な薔薇の花束」
「まぁ、熱烈なラブコールですね」
「ちょっ、やめてよ!」
相手は誰よ!
私はそう思いながら薔薇を見た。
間にはカードが挟まっていた。
『薔薇はブリタニアの象徴といえる花だ。けれど、君に似合うと思ったんだ』
「うわぁ……熱烈だなぁ」
「読むなぁ!」
リヴァルが勝手にカードを取って読み上げてしまった。
私はカードを取り返し、カードをもう一度見た。
内容はリヴァルが読み上げた内容と同じ。
だけど、最後に贈り主を示すサインがあった。
「差出人に皇族の印。お前誰にプロポーズされてるんだよ」
「んなわきゃないでしょ!?」
「シュナイゼル様?」
「スザクも見当違いなこと言わない!!!」
「カレン凄い」
「お願いだからニーナまでそんなこと言わないで……」
私はがくっと肩を落とした。
私が会ったことのある皇族……誰?
ゼロを溺愛していたシュナイゼル殿下はまず間違いなく違う。
「……まさか」
「おお、思い当たる節でも!?」
「一人だけ」
「「おお!」」
「……ナナリー?」
「だって、人の恋路は楽しくありませんか?」
くすくすとリヴァルと一緒になって反応したナナリーちゃんは笑う。
「残念。これがあの人からなのだとしたら、これはプロポーズなんかじゃないわ」
私は肩を竦めて見せた。
「これはあの人から私に与えられた最後の贈り物」
やだ、涙出てきちゃった。
わかっていたじゃない。最初から。
「あの人は一人で行く気だわ。どことも判らぬ場所へ―――」
そうですよね、ゼロ。
あの日からちょうど一年経った日。
計ったように私の元へ一通の手紙が届いた。
それは、ゼロから私、否、私たちへ送られた別れの手紙だった。
扇さんも、玉城さんも、井上さんもみんな。
一人一人へ送られたらしい手書きの達筆な日本語で綴られた手紙には最後に必ずこう書かれていた。
"罪は私一人が持っていく。だから、誰よりも幸せに生きろ"
扇さんは学校の先生に戻り、玉城さんは夢のために勉強をする環境を―――
幹部だった人たちにゼロからそれぞれに与えられた最後の贈り物。
私には赤い薔薇の花束。
ねぇ、ゼロ。
藤堂さんには何を贈ったんですか?
⇒あとがき
尻切れトンボエンディング。てへ☆
『ゼロの少女』はこれにて終了です。
実は、これとは若干違う内容のエンディングがありましたが、書いてる途中でカズイが泣き出すし、話に収拾つかないしでボツに致しました。
尻切れトンボは私が我慢できないので続編やります!
ここまで読んでくださった方、ここまでお付きあいありがとうございました!
20070418 カズイ
20080903 加筆修正