□ケーキ

 神様がいるとしたらかなり残酷な存在だ。
 僕はこうしてストライクガンダムのパイロットとして地球軍の戦艦・アークエンジェルに乗り、親友だったアスランと戦う。
 なんて残酷なんだ……
「坊主」
「なんですか?」
 フラガ大尉が声をかけてくれるのはありがたいけど、今は話をしたい気分じゃない。
 どうせ僕は得体の知れないコーディネーターだよ。
 フレイのお父さんを助けられなかったよ。
 だからって……
 僕だけを責めないでほしかった。
 だって……僕は必死にやったんだ。
 神様のいたずらと言う奴の所為で……
「おい、坊主。大丈夫か?」
 そんなにひどい顔でも僕はしているのだろうか……
 フラガ大尉の方が調子の悪そうな顔をしている。
「大丈夫です。疲れただけで……」
 そういって僕は逃げようとしたけどだめだった。
 腕をつかまれて逃げる事ができない。
「こっちにこい、坊主」
「え?」
 有無を言わさぬ勢いで僕はフラガ大尉の個室に招かれた。
 Gがかけてあるので足が地に付く。
「そこに座れよ」
「はい」
 言われるままにソファーに座る。
 机の上には食べかけのケーキ。
 1人で食べてたのかなぁ……。フラガ大尉がねぇ……、意外だなぁ……
「ケーキ食うか?」
「そういえばケーキなんてだれが作ったんですか?」
「俺だが?」
「!?」
 驚きのあまり固まってしまった。
「フラガ大尉がケーキ!?」
「暇なときに作るのさ。昔の知り合いが大好きだったんだよ」
 昔の知り合いが好き?
 でも、今は何のために?
「俺たちは戦争したくてしたがっているんじゃないことくらいはわかるだろう?」
「でしょうね。じゃないと気が狂う」
「そうだ。人間はすぐに狂う。でも自覚のないままに狂ってしまう。パイロットってヤツはさ」
 フラガ大尉は僕の前にケーキを置いてその隣にコーヒーを入れてくれる。
 自分の分の隣にもコーヒーを置く。
「ケーキ食ってるとな、昔の知り合いの顔を思い出す上に甘いから精神を安定させられる。資料整理の仕事の途中で食えるからいいんだぜ」
「……………」
 フラガ大尉がこんな人だって全然知らなかった。
「いただきます」 ケーキの端っこをフォークでついて欠片をすくって口に運ぶ。
 ふわりと甘さが口に広がって溶けるような感じ……
「おいしい……」
「だろ?」
 自信満々にフラガ大尉は笑って自分の分のケーキを食べながら時折コーヒーを口に運ぶ。
 途中でおずおずと口を開く。
「ザフトには俺の親友だったコーディネーターがいる」
「!」
「『血のヴァレンタイン』から完全に敵同士だがな」
 不敵に笑うフラガ大尉。 楽しんでいるような雰囲気にも見える。
「戦場でもいい。あいつにあえる。そう思って俺は戦地を抜けてる。でもお前は違う。イージスとお前は俺とあいつのそれとは違うんだ」
「!」
「驚くなよ。あくまで俺の感だ。お前とイージスの仲は普通じゃない」
「……僕とアスラン……、イージスのパイロットは月の幼年学校での親友です。同じコーディネーターとして僕をいつもかばってくれた。大切な……友達なんだ」
「……………」
 最後は弱々しく自分に言い聞かせるような形になってしまった。
「そのことは伏せておいた方がいいだろう。お前はどうする?……キラ・ヤマトは」
「僕は、……皆を……、サイ、ミリアリア、トール、カズイ……、皆を守りたい」
 たとえアスランと対峙しても……
 皆は今まで僕がコーディネーターだと知っていても一緒に友達としてそばにいてくれた。
 それが僕の支えだから。
「たとえ裏切り者といわれても僕は……」
「……坊主……」
 フラガ大尉は僕の頬に手を伸ばす。
 冷たい涙の雫を僕に見せ付ける。これはお前が流したモノだと。
 そしてぎゅっと抱きしめてくれる。
「甘えとけ。せめて俺の前でだけでも。抱えすぎても辛いのはキラだ」
 名前で呼ばれてどきりとする。
 抱きしめられてさっきから胸がドキドキする。力強い腕。
 たしかにコーディネーターだから力はあるけど引き離せない。この腕は温かく優しいから。
 とてもおいしいケーキを作ってくれたこの人の手だから?
 ううん……
 この人はナチュラルだけどコーディネーターの僕と変わらない想いを抱いているから……



 優しい口付けは僕を癒してくれる。
 これから先も……
 狂いそうな僕の心を留めてくれる。



⇒あとがき
 あまりの古さに自分でも吃驚。
 修正、面倒くさいんで得にしてません。あえてスルーしてください!
20021213 カズイ
20070318 加筆修正
res

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