□カトレア4
医局内で、知らない人はいないといわれる二人の医者が、外科に揃っていた。
外科主任であるサラディン・アラムート大佐にとってそれは別段変わったことではない。ただ、もう一人の人物は別である。
一瞬少年と見まごうであろう白髪のカジャ・ニザリ中佐は内科主任である。
ちなみに白氏と呼ばれる種族の生まれなので、外見どおりの年齢とはいえない。
それはサラにも該当することでもあるのだが、今はおいておこう。
「はぁ」
「今日はやけにため息が多いですね」
「疲れているといっただろう」
頬に手を当て、カジャはここに来て十回目のため息をついた。
「新型のウィルスが流行っているようですからね」
風邪の。
サラは付け足してカジャの前に淹れたてのハーブティーを置いた。
「まったく、どいつもこいつも自己管理のなっていない奴らばかりだ」
「仕方がありませんよ。新型なのでしょう?」
「わかっているさ。だが、今年は異常だ」
そして十一回目のため息をついた。
「よーす、ドクター……っと、ベンもいたのか」
同時に入ってきたルシファード・オスカーシュタイン大尉を視界に入れた瞬間、カジャは十二回目のため息をついた。
「どうしたぁ?元気ねぇぞ」
「……疲れているんだ」
カジャはぐっとハーブティーを一気飲みし、ため息をついた。
「?」
「こうして休んでいる暇も少ない」
席を立ち上がり、ルシファの横を通り過ぎる。
「そういうものを持ってくるときは私のいないときにしてくれるか?」
そう言ってそのままカジャは部屋を出て行った。
「……そういうものって、なんだ?」
「その花のことでしょう」
どうぞ座ってくださいとサラはルシファに座るように促し、新しいお茶を入れる準備をした。
「病院に鉢植えというのは少々非常識ですが、お見舞いですか?」
「違うよ。ドクターにやろうと思ってさ」
「私に……ですか?」
サラはルシファの正面に座り、差し出された花をまじまじと見詰めた。
サラの記憶違いでなければこの花はカトレア。
別に花に詳しいというほど詳しくは無いが、この花の花言葉をサラは知っていた。
此花ににていると例えられたことがあり、そのためだ。
「……これは新手のくどき文句ですか」
「は?」
首をかしげたルシファに意味は知らないのだと気づき、サラは少しがっかりした。
「そうですか。花言葉を知らずにくれたのですか」
「……なんかすっげぇ意味あった?」
「ええ。あなたが私によく言ってくれる言葉ですよ」
「俺がぁ?」
「あなたは美しい。それがこの花の花言葉です」
もう一つの花言葉はあまり自分に当てはまるような気はしないが、優美な貴婦人という意味もある。
「へぇ……此花にそういう花言葉がね」
ルシファは感心したようにカトレアとサラを観察した。
「それほど花に詳しいわけじゃないしな。花言葉なんて薔薇とチューリップとカーネーションくらいしか知らないぜ」
「薔薇とカーネーションはなんとなくわかりますが……どうしてチューリップ?」
「昔、親父への嫌がらせにお袋が贈ったんだよ、黄色いチューリップを」
黄色いチューリップ。意味は叶わぬ恋。
「それは素晴らしい精神攻撃になったでしょうね」
「いや、親父のやつ花言葉なんて知らないからよ。お袋から花が贈られたきたってだけで気味悪がって捨てたらしいぜ」
前々からルシファを生み、育てた親に会ってみたいとは思っていたが、さらに謎を深める両親だとサラは感じた。
「ま、俺の場合は花言葉知らずにやってるからなしってことで。ドクターがお願いするなら今度は俺からってことで別の花を持ってくるけど?」
「そうですか?では、赤い薔薇を」
サラがそう言うとルシファは驚いた顔をした。
さすがにそれくらいは常識といってもいいだろう。
「ドクター、冗談は……」
「そうですね、今は冗談です」
そのうち……サラは胸の奥で一人付け足した。
【カトレア】花言葉:あなたは美しい、優美な貴婦人
【薔薇(赤)】花言葉:真実の愛、熱烈な愛、情熱、愛情、規範、貞節
⇒あとがき
なんだか不発ちっくだけどこれで終わりっす。
うーん……微妙?
とりあえずサラ→ルシファのままで終わってみます。
きっとそのうちルシファのことだから本当に赤い薔薇をドクターの元へ届けてくれることでしょう。
20050320 カズイ
20070327 加筆修正