□カトレア3

 その日、ワルター・シュミット大尉は少々上機嫌だった。
 理由を挙げるとするならば、今日も平和な一日が過ぎようとしているからだろうか。
 元妻であるメリッサに会って口頭でメッタメタにされることも、ドクターサイコに出会うことも無く、特に何にも無い普通の一日が過ぎようとしているのだ。これが喜ばずに居られようか。
 だがしかし少々暇すぎて、僅かな刺激が欲しいと、足は自然に親友であり基地内No.1のトラブルメーカー、ルシファード・オスカーシュタインの元へ向かっていた。
「おー、ワルくん」
 都合のいいことに向こうも出てきたところらしい。
 この運命に若干感激しながら、ワルターはルシファに歩み寄った。
「やあルシファ。ちょうど君のところに行こうとしていたところなんだ」
 この言葉が女性に向けてだったら素敵な運命だが、生憎ワルターもルシファも男だ。
「ところでその鉢植えは?」
「メリッサお姉さまからの差し入れ」
「あ、そう」
 その言葉にがっくしとワルターは肩を落とした。
 元夫であるワルターよりも親友ルシファを優先したのは、わからなくもないが少々寂しいものだ。
「あ、言っとくけどライラも貰ったぜ」
「そうかい」
 自分はライラよりも下なのかとワルターは再度肩を落とした。
「これをワルターに贈ってやりたいところだが、生憎行き先はすでに決まっててよ」
「自分で育てるんじゃないのか?」
「ライラが育てるのに二つはいらないだろう」
 さらっと誤解(ではないが)の生まれそうな台詞を目の前の男が吐いたことにたいして気にもとめず、ワルターは花を見つめた。
「カトレアか……いい花だよ」
「俺には似あわねぇよ」
 十分似合う気がするがと思ったが、ワルターは口にはしなかった。
 言ったら最後、どこかで見ているかわからないPHの関係者によってネタにされるか分かったものじゃない。
 案外、ワルターのその考えは外れていなかったりするのだが、そこまではワルターは気づかない。
「で、この鉢植えはどこに行くんだ?」
「俺よりもこの花の似合いそうなヤツのとこ」
「そんな娘(こ)いたかなぁ……」
 ワルターは腕を組んで考えるが、答えを導き出そうとするよりも前にルシファは答えを告げていた。
「娘じゃねぇよ。一応野郎だぜ?ドクターは」
 ドクターという単語にワルターはぴしりと固まった。
「ど、ドクターってのはカジャ・ニザリだよな」
 ましなほうを選択させようとしたが、
「何言ってるんだよ、サラディンの方に決まってるじゃねぇか」
 とルシファが笑いながらばしばしとワルターの背を叩く。
「わ、悪いことは言わない。今すぐその恐ろしい考えを取り消したほうがいい」
「いやぁ、いつも心踊る忠告ありがとう」
「いや!踊らないよ!」
「よし、そうと決まれば膳は急げ〜」
「それはおかしいって。ルシファ!ルシファ〜!!!」
 ワルターが止めるのも聞かず、ルシファは急げぇとばかりに走っていってしまった。
「はぁ……俺は止めたからな?……どうなっても俺は知らないぞ」
 ぶつぶつと呟きながら、ワルターは部下達の下へと戻ることにした。



⇒あとがき
 うぎゃー……久しぶりのカトレアざます。
 ネタはあったのですが、なかなか書く機会が無く……三ヶ月と二十日ほどのブランクが生まれてしまいましたよ。
 とりあえず、私の中でワルター・シュミットという男は不幸のどん底にいるということで、こんなことになってしまいました(笑)
20050320 カズイ
20070326 加筆修正
res

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