□カトレア2
春の陽気に誘われてという言い訳はできないよなぁとその部屋の主であるルシファード・オスカーシュタイン大尉は考えていた。
なんと言っても季節は秋。春なんて言葉は当分先である。
うとうとと、夢の住人になりかけたところで、聞きなれた機械音をたてながら扉が開く。
(やべっ)
慌てて顔を上げたルシファは視線の先に立っているであろう人物を、スクリーングラス越しに見つめた。
美しい女性である。
(夢か?)
そう思うのも無理は無い。彼女はここを訪れる予定のないはずの女性だった。
「はぁ〜い、ルシファ」
その声は明らかに副官であるライラ・キム中尉とは別のもの。
彼女はメリッサ・ラングレー。ルシファと同じ大尉である。
同じ大尉でも先任大尉である彼女は基地通信司令部に所属する中隊長だ。
「あれ〜?メリッサお姉さま、どうしてここに?」
「差し入れを持ってきたんだけど、お疲れ?」
「いや。一人で作業すんのがすっげぇつまんなくなってただけです」
「ライラより先に私が来て良かったわね」
「ホント、助かりました」
軽口でそう言い、メリッサの腕の中の鉢植えに視線を奪われる。
紫色の綺麗な花だった。
配色としては違うかもしれないが、一瞬彼を思い出した。
視線を思わず奪われるほどの麗人・ドクターアラムートを。
「これが差し入れ。いらなかったらドクターにでもあげていいわよ。ライラにもあげたところだし」
そういって差し出された花の名前を、ルシファは生憎知らなかった。
じっと花を見ていると、再び扉が開き、ライラが姿を現す。
「失礼します、大尉」
「あら、ライラ。遅かったわね」
「少し考え事を」
そう付け足したライラにルシファは首をかしげた。
「すぐそこで会ったのよ。さっき言ったでしょ?」
「あー、そんな気もする」
メリッサとの会話の内容を思い返し、ルシファはうんうんと頷いた。
その後ライラを見ると、ライラも同じような花を持っていた。
同じような鉢植えに植えられた、カトレア。
「じゃあ、私は用事が済んだことだし戻るわね」
バイバ〜イとメリッサは部屋を出て行った。
「なぁ、ライラ」
メリッサが部屋を出て行った後、花と睨めっこをした末にルシファは口を開いた。
「この花なんていうんだ?」
「カトレアよ」
「カトレア?あー、なんか聞いたことある」
「で、その花どうするの?」
「ライラが育てるのに二つはいらねぇだろ。ドクターの所に持っていくよ」
そういうとライラは黙り込んだ。
なんだ?と思いながら見ているとライラは少し考える風を見せて、小さく笑った。
微笑むという類では決してない。鼻で笑ったのだ。
「な、なんだ!?」
ルシファが驚くとけたけたと今度は声を上げて笑った。
「くれぐれも、ドクターを困らせないようにがんばってらっしゃい」
あー可笑しい。
俺は何が可笑しいかわかりません。
水面下にそんな会話を残しながら、後は任せてとルシファはカトレアの鉢植えを持ったまま部屋を追い出された。
「俺の部屋なのに。くすん」
冗談を呟き、すぐに頭を切り替え、どこか楽しそうな顔でルシファはドクターこと、サラディン・アラムートの元へと足を急がせた。
⇒あとがき
撃沈第二段。とりあえず次こそサラディン・アラムート氏をっ!!
20041230 カズイ
20070326 加筆修正