□始まりの桜
※夢として楽しまれる方はこちらで名前変換をお願いします。
「アルフレッドさん」
呼ばれる声に振り返ると、そこにはいかにも異国から来ましたと言わんばかりに目立つ着物姿の菊がいた。
「やあ、菊じゃないか。どうしてうちに……」
そう問いかける途中、俺は一人の小さな女の子に気付いた。
淡いピンクの花飾りをつけた、菊とはまた違う感じの着物を着た可愛い女の子だ。
俺を見上げるその子は菊の髪を少し長くして、身長を小さくしただけって感じでよく似ている。
だけど彼女は菊の後ろに隠れ、不安そうな顔で俺を見上げていた。
手はきゅうっと菊の着物の裾を握っていて、俺に怯えているのが見て取れた。
「大丈夫ですよ、櫻華」
菊はそう言って不安そうな彼女の頭を撫でる。
浮かべるのは、皆に振りまく笑顔よりも数段やさしい微笑みで、彼女を安心させようとしているのがよくわかった。
あーなんかお母さんと娘って感じだなーと思った。
「櫻華、彼がアルフレッドさんですよ」
「……アメリカさん、ですよね?」
ぼそりと舌足らずな可愛らしい声が聞こえた。
その声はあまりに小さくてうっかり聞き逃すところだった。
「そうですよ。アルフレッドさん、彼女は櫻華と言って私の国の花です」
「花?」
紹介してくれた菊の言葉を繰り返すと、彼女―――櫻華はびくりとあからさまに怯えて見せた。
あれ、俺はこんな小さい子どもを怯えさせるような奴だったっけ?
ヒーローなのに、とそこまで思ったところで俺は「あ」と小さく呟いた。
櫻華は幼いと言っても人間ではない。
生きている時の流れが違うのは何も俺たち国だけじゃない。
櫻華は小さい身体だけど、きっと知っているんだ。俺が菊に―――日本に対してどんなひどいことをしたのか。
別に忘れていたわけではないけれど、菊が優しいから……ああやっぱり忘れていたのかもしれない。
かっちりと着こまれている着物の下の傷はまだ癒えていないはずだというのに―――
「……桜なんです」
消え入りそうな声が再び聞こえ、俺ははっと我に返った。
「っ……すいません」
菊の後ろに隠れてしまった櫻華に俺は首を傾げた。
「アルフレッドさんは染井吉野を覚えてますか?」
「ソメイ、ヨシノ……あー、ワシントンDCの。染井吉野ね」
あれは戦前だったはずだ。
ポトマック公園に贈られた二度目の桜。最初の二つの苗木のことは覚えてる。
菊は来なかったし、俺も行かなかったけど。それでも美しい桜に見とれたのを覚えてる。
「彼女はその妹ですよ。戦後の第一号です」
にこりと笑う菊に、俺は釣られて笑う。
「見ての通り人見知りする子なんですが、アルフレッドさんは気に入ってくださいましたか?」
菊の後ろからそっと櫻華が前に出てくる。
じっと見上げているその様はとてもかわいくて、俺は櫻華の身体を持ちあげた。
「ひゃっ」
「うん、気に入った!よろしくな、櫻華」
「よ、よろしくおねがいします、お父さん」
ふわっと櫻華は微笑んだ。
「……ねぇ、菊」
「はいなんでしょう」
「……君、実は櫻華を産んだの!?」
「生んでません!」
強い声で否定した菊は一瞬顔を顰めて腹部を抑えた。
「菊!?傷が痛むのか?」
「大きい声を出すと痛む程度です。……年を取ると傷の治りが遅くていけません」
「お母さん大丈夫?」
「……ああ、何故でしょう。私は櫻華にそんなことを教えた覚えはないんですが」
頭が痛いです、と菊は額を抑える。
「え?だってエリザベータおねえちゃんが……」
「エリザベータさーん!!……いたたっ」
そう言えばハンガリーも枢軸国に名前を連ねていたっけとぼんやりと俺は思い出す。
菊と初めて会ってから人の時間で112年。
短い間に結構いろいろあった。
最終的には傷つけてしまったけど、日本は戦争はしない・させないを掲げたから、これからは俺が守っていく。
「……うん、お父さんか」
「アルフレッドさん?」
「菊はお嫁さんで!」
「は?」
俺は菊の唇に俺の唇を重ねた。
「好きだよ、菊♪」
「はぁ!?」
「……お父さん、ここ人前だから駄目だよ?」
「そうだな♪じゃあ家に行こう!」
「うん」
再びふわっと微笑んだ櫻華と菊の手を引き、俺は歩き出した。
「ワシントンDCに行かなくてはいけないのですが!」
「そっちは後で〜♪」
「えええ!?」
うん、新しい始まり万歳!
⇒あとがき
……夢と言うよりただのCP小説。うん、気にしない。
書いてる途中でアルマシュ菊!って無茶振りされたのを振り切っての強硬です。
20090711 カズイ