09.カミサマ、この恋を
―――ピィィィ
口笛により空を旋回する鳥を見上げ、ほうと思わずため息が零れる。
「竹谷先輩すごーい!」
「ははっ、お前にもできるようになるさ」
お日様みたいに笑う竹谷先輩は僕の頭を撫でた。
あれから二年過ぎ、竹谷先輩が卒業していき、僕は主に動物の面倒を見るようになった。
虫たちは伊賀崎先輩が居るし、一平もなんだかんだで結局生物委員に居座り続けて毒虫に精通し始め、最近じゃ毒虫野郎二号になる気か?と虎若に不安がられていた。
虎若の考えもあながち間違いじゃないと思う。最近の一平、嬉々として新しい毒虫増やしてたし。
「孫次郎〜!」
ぶんぶんと手を振って、すでに狼小屋に来ていたらしい孫次郎の名を呼ぶ。
「ごめん、遅くなった!」
三年生になって少しは減ったけど、今の一年よりも補習が多い我らは組は今日も今日とて補習だった。
委員会の当番と言う事で自慢の足で急いできたけど、当然のごとく孫次郎の方が先に来ていた。
ろ組も補習がないわけではないけど、それでもやっぱりは組の補習率よりは確実に少ない。
「補習お疲れ様」
「あ、うん」
孫次郎がいつもの青い顔でそう言って微笑むと、思わず赤くなってしまいそうになる。
思わず走ってきた言い訳のように息を整えることで平常心を保って笑みを作った。
「どこまでやった?」
「えっと、水はもう替えちゃったよ。掃除は明日皆でする予定だからゴミを軽く取っただけ」
「……って粗方終わってない?」
「でも毛繕いは終わってないから、一緒に出来るよ」
「そっか……うん、そうだね」
ふにゃりと笑う孫次郎に他意はない。
だけど僕はそんな孫次郎の言葉にいっき……なんだっけこういう時の言葉。まあとにかく孫次郎の無自覚な言葉に振り回されてる気がする。
最近それが余計に酷いからたまに彼女いる癖にふざけんな!って、思わず言っちゃいそうになる。
でもそんなこと言う権利はただの委員会の仲間でしかない僕にはない。
三年に上がってすぐ孫次郎に彼女が出来た瞬間自覚したこの恋は決して報われることはないだろう。
それに僕自身、卒業はせずどこかで区切りをつけて山伏の生活に戻るつもりだ。
は組の皆と一緒に卒業したい思いもあるけど、山の神様と僕は共にありたい。
でも最近なあらなくちゃいけないって思ってる。
そう思わなくちゃいけないくらい、僕は孫次郎の事が好きだ。
決して報われることのない想いだとしても。
「……三治郎?」
「ごめん!ちょっとぼーっとしてた!さー仕事仕事!」
「うん……無理はだめだよ」
「平気だよ」
僕は笑って孫次郎の後に続いた。
ねえ、山の神様。この恋は消える気配がありません。
この想いを抱えたまま貴方の元に戻ることは許されますか?
⇒あとがき
ちょっと悩んで孫次郎←三治郎にしてみました。
カミサマってタイトルの冒頭で三ちゃんだ!とは思ったんですが、三治郎×兵太夫もやりたかったああああああ!!!!←馬鹿っ
20101022 カズイ