06.そろそろ気付いて

「久ちゃん久ちゃん」
 まるでひよこのように後をついてくる四郎兵衛。
 とても俺たちと同じ学年とは思えないふわふわした思考の持ち主で、そういう性格の持ち主だ。
 一つ下の乱太郎たちを馬鹿にする俺たちを「駄目だよぉ」と諌める優しい奴。
 だから後輩に馬鹿にされるんだって自覚しろっつの!
「ねえ、久ちゃん」
「なんだよ」
「大好きー」
 ぎゅーっと抱きついてくるのも昔からで、俺は呆れたように毎度ながら溜息を吐くのだ。
 昔はまだよかった。
 俺より体格が小さかったし、抱きつくって言っても子犬がじゃれてるようなもんだったから。
 だけど六年になった今は違う。明らかに体格が違うのだ。
 学年で一番背の伸びなかった俺と、一番背が伸びた四郎兵衛。
 その身長差は頭一つ分だが、決して俺が低いわけではなく、四郎兵衛がでかいのだ。
 きり丸とは僅差ではあるけど俺の方が買ってるしな!
「あー、はいはい」
 今では子犬がじゃれてくると言うよりも巨大な狼が背後から抱きついていると言った感じだ。
 ひよこや子犬みたいな可愛い生き物はここには居ない。
「で、今日は何があったんだ」
「別にー?ただ久ちゃんの背中が見えたから走ってきちゃったんだ」
 えへへと笑う四郎兵衛の笑顔は相変わらずで腹が立つ。
「四郎兵衛せんぱーい!」
 後輩を両脇に抱えて走ってくる皆本の声に、俺は四郎兵衛の固い身体を押しのけた。
「毎度言ってますけど、どういう視力してるんですか!そして後輩を置いていくの止めてくださいってば!」
「えー?」
「えーじゃないだろうが。委員会の長なんだから後輩の面倒はちゃんと見ろ!」
 高い位置にあるとはいえ手は届くので、昔みたいに四郎兵衛の額を指ではじく。
「痛っ、久ちゃん酷〜い」
「酷いじゃない!四郎兵衛が迷惑かけてるみたいだな」
「いえ、能勢先輩たちを見つけた時だけですから……七松先輩の頃を思えば」
 ははっと引きつった笑みを浮かべる皆本の目が虚ろだ。
 あの頃の六年生が一番個性的だったからな……俺が所属する図書委員は昔からまともな先輩に恵まれてたから大分ましだが、体育委員は暴君・自惚れ・無自覚迷子って続いてたからな……
「まあ、気を強くもて」
「はい」
「いいなあ、金吾」
「褒められたきゃ褒められるようなことしろ、馬鹿」
「久ちゃん、馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ!」
「屁理屈言うな!とっとと行け!」
 けらけらと笑う四郎兵衛を蹴り飛ばし、俺は本の返却が滞っている生徒を探すべく再び歩き出した。
「久ちゃんお仕事がんばってねー」
 のんびりとした四郎兵衛の言葉に振り返らずに手をひらひらと振り返しそのまま歩き続ける。
 最近四郎兵衛と一緒に居ると何度もあいつを怒鳴りたくなって仕方ない。
 あいつは俺を見つけるたびに大好きーと言って抱きついてくる。
 俺だけじゃなくて左近や三郎次にもだから変な目で見られることはないが、いい加減六年になったんだからあの癖直せよな!
 でもあいつは天然すぎて未だ自覚していない。
 左近や三郎次に抱きつくときは「好き」で、俺に抱きつくときは「大好き」と言ってることに。
 俺だって怪士丸に指摘されるまで気付いてなかったのだからあんまり大きな声では言えないが、いい加減気付けよな、本当。
「……恥ずかしい奴」



⇒あとがき
 一人赤い顔でごちながら廊下を歩く久作を左近が発見して風邪か!?と疑ってそのまま拉致していけばいいのに……←いや、そこまで書けよ
 久しろもしろ久もイケる口な私は今回『悪い女』でも書いた予想外な成長っぷりを見せた四郎兵衛と言うルートを選択してみました。
 大型犬になったシロちゃんって大きくてもきっと可愛いと思うんだ!
 低い声で相変わらずの口調が似合う脳内再生してるこの声に近い声優は誰だろう……思い出せ私っ。
20101019 カズイ
res

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