01.本気の恋は止めよう

 本気の恋は止めようと、そう思ったのはいつの頃だったか。
 気付けば視線で追っていたのはどんなに美しかろうと、所詮は俺と同じ男であるはずの立花仙蔵だった。
 最初はそんな馬鹿なことがあるはずがないと否定をしていたが、認めてしまえば少しは冷静でいられた。
 この恋を捨てようと決めても捨てられず、仙蔵に恋仲の娘が出来るたびに俺の胸は軋んだ。
 なんて女々しい想いだろうと自分で自分を笑うが、どうにもうまく笑えず、これは本気の恋ではないのだと気付けば言い聞かせていた。
「おい、留三郎」
「んあ?」
 突然呼ばれても平静を装えるようになったのはそれからだ。
「なんか用か?」
「小平太の馬鹿が作法室の扉を壊したのだ。すまんが今日中に修理してもらえるか」
「今日中!?お前、俺が今生物小屋の戸を直してるのが見えないのかよ!」
「見えるがそれでは委員会活動が出来んだろうが」
「そんなもん活動を休止するか別の部屋でやればいいだろうが」
「作法室で保管している用具はどうする。秋風に晒せと言うのか!」
「お前な……」
 我儘な女王様気質。
 なんでこんな男に俺は惚れているんだろうと思うが、事実惚れているのだからしょうがない。
 諦めるように溜息を一つ吐き、はらはらとこちらを見守る作兵衛と一年たちにちらりと視線を向けた。
 あまり話を長引かせても後輩の教育上よろしくないだろう。
「取り敢えず用具委員の部屋でも使え。戸は今夜のうちに直しておくから」
「おお助かる」
 そうと決まればと言うように仙蔵はあっさりと去っていく。
 どんなに俺が仙蔵を想っても、仙蔵は俺のような奴等見向きもしないだろう。
 女のように美しかろうと、あれも男なのだから仕方ない。
「食満先輩、今夜って……」
「ああ、壊したつってもいつものようにバレーボールぶつけて壊した程度だろ。俺一人で直すから安心しろ」
「一人って、僕も手伝いますぅ」
「平太ずるい!僕も」
「ぼくも〜!」
「その申し出はありがたいけど、夜はちゃんと寝ろ。いざとなったら伊作に手伝ってもらうから、な?」
「「「でも……」」」
「いつも迷惑掛けられてるんだからたまにはこっちが迷惑を掛けても問題ないだろ?」
「まあ、それもそうですね」
 苦笑する作兵衛に一年たちは塹壕や蛸壺に落ちる伊作を想像したのか作兵衛と同じように納得してくれたらしい。
 どっちかって言うと一人の作業の方がいい。
 作法室には首実検用のフィギアがごろごろ……いや、今は委員会長屋の用具委員が普段使わないあの部屋に移動をさせている頃だろうが、もし残ってでもしたら平太なんてちびりそうだ。
「食満先輩、なに笑ってるんですか?」
「いや、なんでもないさ」
 不思議そうな顔をする作兵衛の頭を撫でれば、作兵衛は顔を真っ赤にして「いきなり何するんですか!」と言い、一年たちは「ずるい」と口々に言い、俺は皆の頭を撫でた。
 笑顔の裏で、心はこんなにも軋んでいるのに、こいつらが居るから温かい。
 うっかりこぼれそうになった涙を俺はぐっと堪えた。



⇒あとがき
 あまりのサイトの少なさに自給自足な仙留。
 でも仙←←←留な仙蔵からのフラグゼロ。なんてこったい!
20101019 カズイ
res

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