脅迫
S.M.Sに入隊……いやまだ正式じゃないってアルトは知らないだろうけど、とりあえず入隊したアルトは訓練に次ぐ訓練を重ねていた。
それこそ本来の目的と言うか、バジュラに関しての話題など口にする暇がないほどの。
それでもアルトは根を上げない。と言うかこれくらいじゃ上げないわよね……父さまとっても厳しかったし……
アルトは根っからの役者だから物語のように役を受け取った。ごく自然に……運命のレールに乗るように。
「……たくまぁ」
呟いて、アルトはぱたっと倒れた。
『って、アルトー!?』
今のランカちゃんからのメールだよね!?
返事出さないまま寝落ちとか駄目だよー!
『起きなさいアルトー!風邪ひくぞー!』
ああ幽霊って何が悲しいか、触れないのよね……
―――ガチャッ……
『ん?』
アルトの寝落ちと共に落ちた明かりが、扉が開くと同時についた。
入ってきたのはミハエルとルカくんだった。
二人してアルトの携帯を覗き込む。
プライバシーの侵害だー!……と言ったところでまぁ無駄だけど。
「ほほーう」
「先輩、何時の間にランカさんと」
二人の後ろをボビーがついてはいってきたことに私は気付いた。
まさかその手にもつ箱はメイクボックス!?
そう言えばこんなこともあったね!
「"ランカちゃんがミスマクロス"の方は驚かないのか?」
いくらボビーが伝説のメイキャップアーティストだろうとそのメイク道具は許せないわ!
ああ、私がアルトに乗り移れたらその腕つかんで止めるのにぃ!
「それはナナセさんに聞いてます。あ!でも、隊長には内緒ですね」
「当たり前だろ」
―――パシッ
……あれ?掴めた?
ばっちりとあってしまったボビーとの視線がうっかり離せなくなってしまた。
「もしそんなことが……」
「何が内緒だ」
あ、オズマの声が聞こえる。
「い、いえ!なんでもありません!」
「で、どうだ新入りは……」
「はい、見ての通りです……って!?」
「え!?」
振りかえったミハエルとルカの驚きの声にボビーが先に我に返ってくれた。
「もう、狸寝入りだったわけ?」
「ち、違っ……」
私は慌てて手を放し、飛び起きるようにして両手を上に上げる。
なんで私犯罪者の気分?
「先輩!?」
ルカくんが素っ頓狂な悲鳴を上げた。
隣のミハエルはぽかーんと口を開き、私、基アルトを見ている。
小首を傾げつつその奥のオズマを見れば、額に手を当てている。どうやら頭が痛いらしい。
「はい、アルトちゃん」
そっとボビーがアルトの肩にタオルを掛けてくれた。
「ああ、ありが……」
その流れで視線を落とせば、自分的には見覚えがあってもアルトにあっちゃいけない双丘があった。
「……わお」
「わおって……なんだよその反応は」
一応今日までの訓練でアルトの胸に乳……ごほん。女性らしい胸がなかったことを知っているミハエルが呆れたように突っ込む。
「いや、驚いてさ」
「アリア、お前いつの間にアルトと入れ替わった」
「強いて言うなら今さっき、ってところかしら」
「非常識の塊め」
「そうでなくちゃ私はここに居ない。そうでしょう?」
ふふっと笑えば、オズマは深々と溜息をついた。
「とりあえずこれは計算外だったけど、まぁ成果はあったかな。オズマ……あと少しでだから待っててね」
「ああ」
「それから、アルトにはまだもうちょっと内緒にしててねオズマ」
「この手はなんだ」
「サービスサービス♪」
オズマの首に腕をからませ、ちゅっと髭面に唇を落とすと同時に浮上し始めたアルトと交代する。
「……は!?なんだこの状況!」
覚醒したアルトは現状に驚きながらもすぐに離れなかった。
ちょっとお馬鹿だ。可愛いv
「耳元で叫ぶなアルト。アリアの仕業だ」
「アリアのって……」
アルトはミハエルとルカくんがぽかーんとみているのを見て顔を青ざめさせる。
ボビーはボビーで微笑ましげな表情でアルトを見ている。
見られているアルトの胸にはもう胸はない。
どうやら私がアルトの身体を乗っ取ると女体化するらしい。大発見だね!
「ばれたんならもういい!……覚えてろよアリア」
『ええ!?酷いやアルト!』
「次やったら……嫌いになる」
『やめてぇぇぇぇ!!』
「なんだそれ」
「アリアにはこの台詞が一番効くんだよ」
「……まぁ、わからんでもないな」
同じ下の兄弟を持つ者としてオズマが同情の眼差しを間違った方向に向けている。
「……アリアはこっちだ」
見当違いの方向を指さされ、オズマは咳払いをして誤魔化した。
『アルトの意地悪ー!』
⇒あとがき
どうしてもやりたかった乗っ取り&女体化ネタ。
実は「わお」の台詞以降一回書いたものを書き直しています。
まぁそれはボツメモを見ていただければわかると思います。
20090120 カズイ