再会
運命とはまさしく小悪魔の悪戯だと俺は言おう。
なにしろキャシーと別れて以来……いや別れる以前からかもしれんが、ランカを第一に考えていた俺に出会いを与えたのは可愛らしいが中身は我が道を行く、外も中とんでもない美少女だったからだ。
記憶に残る彼女は青く長い髪を三つ編みにして赤い紐で一つに結っている。
桜色のキモノに袖を通し、年齢とは少々不釣り合いな大人びた笑みを浮かべていた。
そして色の白い肌に飾られた桃色の唇が怪しく囁いた。
「―――そうすれば未来はきっと変わるわ」
とんでもないことを言うとその時は思った。
語られた話自体がそもそも信じられないことばかりだったが、彼女―――アリアの真意は決して分からない。
アリアは俺の目の前で突然意識不明の昏睡状態に陥ったのだから、まぁしょうがない。
今でも月に一回くらいの割合で見舞いに言っているが、目覚めの兆候はない。
「"早乙女アルト"……か」
ギリアムの死を見届けたまだ若い少年。
スピーカー越しに再会したその声音は歌舞伎役者らしいよく通る声だった。
アリアの双子の弟にして、天才歌舞伎少年。
VF-25を拙いとはいえ扱えたのだから、芸能科から航宙科に転科したのだろう。
歌舞伎のほうは興味がなかったのでチェックしていなかったが、一年前ミシェルが言っていた転入生と言うのはアルトのことだろう。
「……ますますアリアの思うつぼだな」
苦笑しながら美星学園の校門で彼を待つ。
一応事前に調べて来たが、芸能科ではなく航宙科の早乙女アルトを頼むと事務員に頼めば確かにつながったのだから、なんともアリアの才能が恐ろしい。
息をふうと吐き出すと、校門に一人の少女……いや、少年が姿を現した。
病院のベッドの上で眠り続けるアリアと瓜二つの少年。
男女の双子ではあるけれど、兄弟なんだから似通っているのは仕方のないことだろう。
「……久しぶりだな、早乙女アルト」
「は?」
露骨に嫌な顔をしたアルトは斜め上の方を何故か睨んだ。
そして小さく「まじかよ」と嫌そうに呟いたあと、また俺の方を見た。
「あんたが"オズマ・リー"か?悪いけど記憶にないからな」
記憶にないと言いながらしっかり俺の名前を覚えている。
この辺りにどうもアリアの陰謀を感じる。
「まぁ3、4年前のこともあるが、今日はうちのVF-25を持ちだして交戦したバカな早乙女アルトに会いにきた。お前だろ?」
「……ああ」
今度は斜め下の方を睨み、「うるさい」と呟いた。
声自体は聞こえなかったが、口がそう動いた気がした。
「……大丈夫か?お前」
いるはずのない何かと喋っているようにしか見えないその行動に対し、俺はそう問うた。
「ちょっとつかれてるだけだ」
溜息をつき、そう言った。
……まるでアリアに強制連行されたあの日の俺を見ているようだった。
「まさかとは思うが……いるのか?あいつが」
「……ついてる」
恐る恐る問えば、一瞬驚いた顔をした後、頷いてそう言った。
どうやらアルトは"疲れてる"ではなく"憑かれてる"と言っていたようだ。
俺が現れたことに疲れた、ではなく彼女に憑かれていると言う意味で。
「あの日からか……通りで見舞いに行っても目覚めないはずだ。とっとと身体に戻れよアリア」
さっきまでアルトが睨んでいたところに向け、俺は言った。
「アリアはそっちだ」
すっとアルトが指さしたのは俺の肩の上だ。
なんかずっしりと重たい感じがした。
……これが憑かれるってことか。
「……って経験したくねぇよ!!!」
「ナイス突っ込み……だってさ」
「幽霊になっても自由だなお前は!だー、もう行くぞアルト」
「は?」
「幽霊にいつまでも構ってられるか!第一アリアには常識が通じねぇんだ。非常識の塊だ!無視するのが一番だ」
「……否定はしないけど……耳が痛い」
アルトは眉間の皺を深くし、両手で耳を塞いだ。
「ったく……とりあえず乗れ。ここで話すのもなんだろ」
「アリアがにやついてる……なんかこのまま乗るの癪だ」
「何やっても今のアリアは喜ぶ状況だろうよ。諦めろ」
「?」
アルトは意味が分からず首を傾げた。
こてんと小首をかしげるような動作は普通野郎がするものではないと思うんだが……ナチュラルに似合ってやがるな、こいつ。
「なぁ、おっさん」
「おっさんはやめろ。オズマと呼べ」
「オズマ……さん」
「なんだ?」
呼び捨てにしたもののアリアに怒られたってとこか?
「……やっぱ行ってから話す」
アルトは顔を背けるとぶすっとした顔でそう言った。
子どもっぽい仕草に俺は笑い、アルトの頭をくしゃりと撫でた。
「じゃあ行くか」
「なぁ、"もえる"って何だ?」
「あー……アルト、幽霊殴れるなら遠慮はいらない。今すぐ全力で殴れ」
⇒あとがき
オズマ視点だと夢主の台詞書けないから訳分からないですねー。
でもとりあえずオズマとアルトの再開にきゃーきゃー言ってる姿を想像していただければいいかな、と……
20090120 カズイ