妄言

 俺、早乙女アルトの双子の姉―――早乙女アリアは昔から変わった人間だった。
 外見は二卵性の双子にしてはよく似ている方だとは思うが、纏う雰囲気はアリアの方が大人っぽいと思う。
 礼儀正しいから周りにはいい子だと思われているけど、結構自由奔放で人が右といったら左と言いたくなる困った性格の持ち主だ。
 小さい頃突然矢三郎兄さんと同じ合気道の道場に通うと言いだし、気づけば同年代では負け知らずの腕前を持っていたアリアも流石に病と言うものには勝てなかったみたいで、13歳の時突然倒れた。
 現在も理由は原因不明だが、今も病院で意識不明のまま眠り続けている。
 母さんが死んだ時に抱いた無力感から救ってくれたアリアの突然の大事件に俺は舞台後の高揚した熱が一気に冷めて奈落の底に突き落とされた気分だった。
 そこから救ってくれたのも、意識不明のはずのアリアだった。

『アルトー?』
 ひらひらと俺の目の前で動く、奥の景色が透けて見える手のひら。
 はっと我に帰れば心配そうにアリアが俺を見ていた。
 咄嗟に「なんでもない」と返事をしようとして我に帰って辺りを見た。
「って、あれ?」
 目の前に居たはずのミハエルや、隣に居たはずのルカの姿がない。
『アルトがぼーっとしてるから皆先に教室行っちゃったよ?』
「……ああ、そうか」
 天蓋に映し出された空を見上げてそのまま物思いに耽っていたようだ。
『私の声も聞こえないくらい空ばーっか見てて詰まんなかったよ』
「じゃあミハエルたちの後付いて教室行けばよかっただろ」
『まぁ、それも思ったけどさ……私もちょっと物思いに耽ってたわけさ』
 苦笑を浮かべ、アリアはふわりと俺の横に座った。
『ねぇ、アルト。アルトは運命って信じる?』
「運命?なんだよ突然」
『別に突然じゃなくてね……なんとなく予感はあったんだけど……』
 ふとアリアは空を見上げた。
 空というより、シェリルが歌い続けるホログラムをだ。
 ……ちっ、アリアの所為であいつに詳しくなったんだよなぁ。
『―――もうすぐだから』
 大好きなアイドルを見て高揚してるかと思ったら、アリアは辛そうに奴を見ていた。
「なんだよ、俺も行くんだから見れるだろう?」
『シェリルの歌を生で聞けるのはうれしいよ。でもそうじゃなくて……』
 アリアは首を横に振って、俺をじっと見つめる。
『覚えてる?アルト、私が倒れた日の事』
「……覚えてるよ」

 あの日の事は、本当によく覚えている。
 『桜姫東文章』
 お役であった桜姫は"早乙女有人"のファンの中でも一番だったと評判のお役であり、その中でももっとも良かったと言われる日だった。
 妙に高揚した感情が思い出すとふと蘇ってくる気さえするほどだった。

『あの日、私出会ったのよ―――運命の相手と』
「は?」
 どこのどいつだ、アリアが運命の相手と思いこんだ奴は。
 まぁ大方シェリルみたいな優男タイプだろうけど。
『私ったら思わずその人をひっ捕まえて一緒にアルトの舞台を見に行ったのよ!覚えてるでしょ?病院にまで付き合ってくれた親切な人♪』
「あー……なんかいたな、変に親切なおっさん」
 でかい身体にボサボサの頭。
 とても舞台に興味を示して見に来たような感じが見受けられなかったと思ったらアリアが捕まえたのか。
「……ってそいつが運命の相手ぇ!?年いくつ離れてんだよ!」
『失礼よアルト、彼、当時22歳のぴちぴちなお兄さんよ!?』
「ぴちぴちって……死語だろ」
『ああなんて温度差!』
 大げさに嘆いた後、アリアはびしっと俺を指さした。
『いいことアルト!お姉ちゃんは彼を運命の相手だと決めました』
「決定事項かよ」
『ええその通り!私、早乙女有亜は、彼と早乙女アルトの仲を全力で応援します!』
「あっそ……って、待て!誰と誰の仲だって?」
『もー、アルトったら私の声届かなくなっちゃった?彼とアルトの仲だよ〜』
「彼ってだから男だろ?運命の相手ってアリアのじゃなく……俺の?」
 い、意味がわからん。
『だからそう言ってるじゃない。自由恋愛万歳☆』
「……シリアス返せ!」
『それは出来ない相談だね!』
 あははっと笑い、アリアはふわりと空に舞った。
 自由にもほどがある!



⇒あとがき
 隊長が話に出てきても名前すら出てきてません(笑)
 もうちょっと頑張ろうや、自分。
20090117 カズイ
res

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