風歌
生態系艦アイランド3には環境改変装置の役割として美しい島がある。
幽体離脱する前に研究の一環として特別に上陸したことが一度だけあるけど、その美しさは数年くらいでは変貌していないようだった。
まあのんびり島を見て回る暇は今の私にはないんだけど。
ミスマクロスに参加できなかった私は少しでも舞台に近づくべく、『BIRD HUMAN−鳥の人−』のオーディションに参加することにした。
モデル時代のツテと早乙女の名を駆使してサラ役のオーディションにギリギリ参加できた私はどうにか監督の目に留まった。
オーディション会場にミスマクロスであるミランダがいないのはおかしいと思っていたら、どうやら同じく監督の目に留まったらしいミランダはノーラ・ポリャンスキー役に既に決まっていたらしい。
……うん、確かにあの年齢詐称気味の色っぽさは役にハマるかも。後好戦的な性格も。
「アリア、お前この俺が来たってのに挨拶なしか」
呑気にパラソルの下でビーチベッドの上に身体を預けて目を閉じていた私に影が差す。
監督が主題歌に関して揉めている上に役者がそろっていなかったり撮影がストップしてしまっていたりで時間に余裕のあった私は外から聞こえる音を意識から遮断していた。
まあそれでも一応ヒロインだからね。ちゃんと聞いてると言えば聞いてたわよ。
「はぁいシェリル。ごきげんよー」
「棒読みかよ」
ゆっくりと身を起こせば、その後ろにアルトが居るのが見えた。
「お疲れ様」
「ヒロインがサボってていいのか?」
「見ての通り休憩中よ。それに完全にサボっていたわけではないわ」
「?」
「歌を思い出していたのよ」
人工の風が頬を撫でるのに目を細め、空を仰いで小さく溜息を零した。
「……風の歌、か」
yanyan?
どっちかって言うとこれもマオの歌っぽいわよね。
「撮影は中断中か?」
「まあね。シン・工藤役の男優が水中撮影は契約範囲外だって怒ったからスケジュール調整中」
まああんな場所じゃ役者魂があっても普通嫌がるわよね……
「ふーん、じゃあ……」
シェリルが何かを言おうとした瞬間、巨大な影が割って入った。
「若旦那!武蔵屋の若旦那じゃないですか!」
武蔵屋と言うのはうちの屋号だ。
私の顔を見てスタッフの何人かは感づいていたけど、女である私はあまり家とは結びつかず、私と並んだことでアルトが分かったと言ったところだろうか。
本当の有名人は私ではなく有人の方だから。
ちなみにまくしたてたのは助監督で、さりげなく監督もアルトの手を取っている。
流石のこの状況には銀河の妖精、シェリル・ノーム様もきょとんとした顔で三人を見ている。まあ、そんなもんだろう。
武蔵屋なんて屋号を言うあたり、気合の入った歌舞伎ファンか芸能関係者くらいだから。
同じ芸能関係でもシェリルとアルトじゃ元々の畑が違うから仕方ない。
「まさかこんなところであなたにお会いできるなんて!いやあ前に新年会で遠くからお見かけした時は振り袖姿でしたからわかりませんでしたが、男装もまたなまめかしい!」
「誰が男装だ、誰が!」
切れそうになったアルトだけど私とシェリルの手前大人になって助監督との会話が続く。
映画に出てほしいと言う助監督と、もう有人で居たくないアルト。
アニメではそこまで深く触れなかったアルトの心情はとても複雑そうだ。
まあ小さい頃から傍に居たから分からないわけじゃないんだけど、私はアルトじゃないから、アルトの本心は相変わらず双子の有亜にもわからない。
白熱する助監督の言葉の中に紛れた桜姫の名前にアルトは当然嫌悪感を露わにして、当たり障りのない言葉で話を断ち切りその場から逃げ出した。
「あ、ちょっと……」
「シェリル」
慌ててアルトを呼びとめようとしたシェリルの袖を引っ張って引き留めた。
こちらを見たシェリルは眉根を少し寄せ咎めるように私を見たけど、私はただ首を横に振った。
「あの、私、少しシェリルと話があるんで席を外しますね」
「あ、ああ……念のためそんなに遠くに行かないで下さいね」
「はーい」
「おいアリア?」
私は無言でシェリルの腕を引きその場を離れる。
監督も助監督も悪い人じゃないんだ。ただちょっとアルトの嫌いな自分の美だけを求める人なだけで……
適当に歩きながら私はそっとシェリルの手を離した。
「……ごめん」
「いや、別に良いけど……まあ、都合よかったし」
「?」
「風の歌さ、お前が主演だって聞いて、一緒に感じてみたかったんだよ。―――サラの歌をさ」
「サラの歌、か……」
私の歌う歌はどれも私の歌ではない。
シェリルの歌だったり、マヤンの娘A役としてこの島に来ているランカちゃんの歌だったり……サラの歌だったり。
「……私の歌って、何だろう」
「え?」
「私、どうしてもシェリルと同じ土俵に立ちたいって思った。でも私はこうしてここに居る。芸能界に戻る足がかりとはいってもさ……私、本当は歌いたいの」
私の歌を。
誰でもない、私の歌。
手を伸ばせば触れるシェリルから借りたフォールド・クウォーツのイヤリング。
「ごめん、ちょっと弱気になった」
「別に良いけど……元が俺の歌だろうと誰の歌だろうと、お前の歌う歌はお前の歌だろう?」
「そうかな?」
「自信ないんだな。あれだけ歌っておいて」
「はは……」
「そんなに自信がないなら俺が作ってやるよ。お前の風の歌」
ざあっと海風が頬を擽る。
「……私の、風の歌?」
「ああ」
雪花石膏と称されるシェリルの白い指先が私の頬に触れる。
「お前だけのアリアのための歌だ」
強い眼差しが私を見詰める。
吸い込まれそうなセルリアンブルーの瞳がそっと近付いた。
(嗚呼、私―――)
⇒あとがき
ひい!一年半も間が開いちゃったけどアニメ10話のお話です。
アニメ10話と言ってもこの辺りの進行は小説寄りですので、逃げ出したアルトはミシェルといちゃついてます。小説までミシェアル推奨とかなんて話だマクロスFは。けしからんもっとやれ!
ああでもオズマでないよーアルトといちゃいちゃかけないよー。オズアル読みたいよー。←
20110527 カズイ