決意
第二の人生なんて言葉がある。
定年退職して新しい人生を歩み始めた時を指して言うべき言葉だと思う。
もしくは生まれ変わり?
なーんて、非現実的すぎるか。
とは言え、実際にこうしてうっかり第三の人生を歩み始めちゃった私はどうしたらいいものか……
『……そこのところどう思うかね、我が弟よ』
真面目顔で弟であるアルトに突然ではあるけれど問うてみれば、眉間の皺が問答無用で増えた。
「ん?どうした姫」
「姫って言うな、ミハエル」
不思議そうに私の身体をすり抜けて問うミハエルにアルトはため息を吐く。
「疲れてますね、アルト先輩」
「……憑かれてるんだよ」
『ひっどーい!』
「なんでこっちを見ながら言うんだよ姫」
「だから姫って言うな!」
『姫なのは事実じゃん』
怒鳴るアルトにぼそっと私は呟いた。
「やかましい!!」
「俺、やかましいほど言った覚えはないぜ?」
「幻聴ですか?病院言った方がいいんじゃないですか?アルト先輩」
「……お前何気に酷いな、ルカ」
「へ?あ、そう言う意味じゃ……す、すいません!」
『あーもうルカくんサイコー!!』
けらけらと私は笑い、更にアルトに睨まれる。
ちなみにこの現状、説明いたしますと……まぁなんとなく想像出来てるとは思うけど美星学園入ってすぐに見える階段。
昼食を取っているいつものメンバー、アルトとミハエルとルカくんとナナセ。ついでに私。
皆は互い階段の段差に座っているけど、私だけは宙に浮かんでる。
まぁ、簡単に言うと幽霊と言う奴だ。
ちなみに、私の姿はアルトにしか見えていない。
よって、私の身体をすり抜けて問うミハエルが残念なことに私の代わりに被害に遭っている。
『哀れミハエル』
「お前が言うな、お前が」
ぼそっと呟かれた言葉に、口の形を捕らえたミハエルだけが首を傾げていた。
最初の人生、私は藤田有亜と言う名前を持ったごく普通の女の子だった。
ただちょっとアニメが好きで、べーこんれたすな物が大好物だっただけだ。
どこかの可哀そうなPNスノウさんとか、その返事に馬鹿な内容を返そうとしたPNイチゴラブさんとかみたいな波乱万丈な人生は送ったつもりはない。
だけど突然私の最初の人生は幕を閉じた。多分心筋梗塞かなにかだと思う。
突然胸が痛くなって気づいたら見知らぬおっさんの腕の中で泣き声と言うより驚きによって悲鳴じみた声を上げていた。
ちなみにその声はオギャーと言う形にしかならなかったが、周りを相当驚かせたようだ。
とりあえず私はそうやって第二の人生、早乙女有亜としての一歩を踏み出した。
それもまぁ束の間の出来事ってやつでね。
12の時に母親が亡くなってすぐ、私は早乙女有亜としての生涯を終えた。
まぁそれは冗談として、実際問題私の身体は今ここにない。
病院のベッドに意識不明のまま貼り付けられてる。
何度か元に戻ろうとはしたけど、元に戻ることはない。
定期的に兄さんが見舞いに来てはくれるけど、父やアルトは見舞いには来てくれない。
ま、アルトはこうして幽体離脱してうっかり第三の人生を楽しんでいる私と毎日顔を合わせてるから必要ないだけなんだけどね。
流石に父親が見舞いに来ないのはね……前の人生の記憶があるとはいえ、きついね。
だから私は断然アルトを応援する。
でもその間も決して忘れない。
『……絶対守るからね』
皆のこと。
この先訪れる未来を知ってしまってる大人として―――
でもとりあえず目標はオズアルだ!
やるぞー!!!
「アルト先輩?」
「……なんか嫌な予感がした」
『失敬な!』
⇒あとがき
Fを見た直後見た夢を是非とも表そうと突発的に書いてみたけどこれはなんだ?
ちなみに今回「疲れた」と「憑かれた」、それから「哀れミハエル」を言いたいがために書きました。←Σ待て!
……新年一発目執筆がこれとかどうなんだろう。
あと、オズアルは完全に趣味です。さーせん。
20090110 カズイ