姉弟

「有亜」
「ん?なに?有人」
 鼻歌を歌いながら有人の前を歩いていたそっくりの顔をした姉―――有亜は、長い髪を揺らしながら有人を振り返った。
「舞……もうやらないの?」
 有人の問いに有亜はきょとんと瞳を丸くし、大きな目を瞬かせた。
「趣味程度にはやるよ。先週もお稽古出たでしょ?」
 確かに有亜は稽古に出た。
 父・嵐蔵に有人に同年の少女を学ばせると言う理由により毎日続けていた稽古は、今や週に一度あればいいと言うほどに少ない。
 女物の着物に身を包む儚げな少女を思わせる有人と違い、有亜はジーンズにTシャツ。
 しかも額と頬と鼻の頭に絆創膏が貼られている上に、肩にはスポーツバッグととても少女とは思えない格好だ。
 それもこれも合気道を始めたせいだと思っていた有人だったが、鼻の傷はサッカーボールをうっかり顔面にぶつけたものだと言うし、頬の傷は割れた試験管が弾けたせいで切れたと言う。
 その証拠に指先を出した手袋の中に同様の切り傷があるのを有人は知っている。
「突然どうしたの?」
「……なんでもない」
 ふいっとそっぽを向けば、くすくすと言う笑い声が横から聞こえる。
 有亜と一緒に合気道の稽古に行っていた矢三郎の声である。
「矢三郎兄さま、笑っちゃだめよ」
「すいません。お二人が可愛らしかったので」
「可愛いのは有人だけよ」
「私は可愛くなんて」
「いーえ可愛いの!」
 力説した有亜は再び鼻歌を歌いながら歩き出す。
 いつも歌っているアイモとは違う歌のようだ。
 あまり機嫌がいい時に声を挟むのもなんだと思い有人は仕方なく口を閉ざす。
 口を開いたところでどう有亜にこの気持ちを伝えていいのか判らないのだ。
「有亜さん」
「んー?」
「その選曲はかなり渋いかと」
「やっぱりー?」
 あははと有亜は笑いながら鼻歌ではなく歌詞を紡いだ。
「リメンバー 大空舞う銀の翼―――」
 アイモとも、有亜と矢三郎が好きだと言うFIRE BOMBERでもない。
 可愛らしい声で紡がれる小白龍。
 間違いなく聞き覚えがあるのだが、有人はその曲名が思いだせずにいた。
「リン・ミンメイだよ、有人」
「ああ」
「リン・ミンメイって言ったら普通は愛・おぼえていますかだと思うんですけどねぇ……」
「だって最初見つけた時衝撃だったんだもん……懐かしいよ……」
 ふと有亜は立ち止まり、夕陽をじっと見つめた。
「有亜」
「ん?なに?有人」
「好きよ」
「へ?」
「うん。そう言うこと」
 有人は有亜の横に並ぶとその手を取って引いた。
「えーっと……はは、ありがとう、有人」
 照れたように微笑んだ有亜の顔にさっきまでの寂しさは浮かんでいない。
 それに安心し、有人も微笑んだ。

「ふふ、本当に可愛らしい姉弟ですね」
 その少し後ろを歩く矢三郎はただ小さく微笑んだ。



⇒あとがき
 なんか耳に残る歌だよなぁと覚えていた小白龍。まさかアルトとブレラが歌うとは思ってもみなかったんですっ。
 アニメ見てる時は必死に忘れようとしてたんですけどアルトの声の人……阿部くんなんだよね(遠い目)
20090813 カズイ
res

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