弱音
突然呼びだされたグリフィスパークの丘。
ふざけた姿しか見ていないアリアが座り込んでいるのが見えた。
「……アリア」
「オズマぁ……」
ゆっくりと上げられた顔は、困ったように眉がハの字になっていた。
「私じゃ、運命は止められないのかな」
恐らく何かあったのだろう、俺は黙ってアリアの隣に座った。
初めてアリアに出会った3年前、まだ13だったこいつは俺に情報を与えた。
いずれはバジュラと大激戦になること、真実の敵がバジュラではないこと、アルトとランカがバジュラとの戦いの鍵であること……
自分のことは曖昧に誤魔化し、ただアルトとランカの傷つく姿は見たくないと言った小娘を俺は信用した。
普通あんな出会いをして、いきなりカブキを見せられて、直後倒れられたら普通は信じられないだろう。
だがそれを踏まえた上でアリアは打ち明ける相手を俺に選んだ。
理由に関しては正直聞きたくはなかったし、そうなるつもりもなかったが、結局俺は今アリアの望むままアルトの側に居る。
支えになれるかなんてのは正直隊長と部下って立場もあるから無理だっていいたいんだが……この間のアリアのこともある。
偶然にもさっき会ったアルトは確実に俺に気持ちを向け始めているのが判った。
あいつの中にはまだしっかりと"有人"が居る。何より有亜が有人を望んでいるのだから。
「何があったんだよ」
「アルトの代わりにシェリルとデートしてきた」
「は?」
アリアの言う本筋って奴と違ったことになったから困ってるのか?
俺はアリアの言う本筋を全て知っている訳じゃなかったが、男同士でデートして何が楽しいんだろう。
相手がアルトならまぁ有りかもしれないが……いかん、完全に毒されてる。
「ランカちゃん、輝いてた……これからのこと考えたら歌から遠ざけるべきなんだろうけどさ……」
アリアは両手で顔を覆った。
「駄目だよ、ランカちゃんの夢を壊せない」
手当たり次第に物を投げるランカに俺は反対することしか出来なかった。
多分、こいつは俺よりもずっと前からランカをどうすれば戦いから遠ざけられるか考えていたんだろう。
それでも結局ランカを可愛いと思う気持ちが根本からずれないのか、邪魔が出来なかったんだろう。
何があったかはよくわからんが、ランカの事はミシェルに頼んでいた。あいつのことだから発破でも掛けたんだろう。
「その上そんなバナナ!な展開になるし」
「ネタが古い。……で、何したんだよ」
「知らないよ!ランカちゃんは私のことお姉様って呼んでいいですか?とか言いだすし、シェリルは突然キスしてくるし、ミハエルはなんか怒って帰るし……ああもう何が何だか!」
「……本当にな」
ランカが聖マリア学園のノリで姉が欲しかったのは知っていたからわかるが、何故アリアを選んだ。
そしてシェリルとミシェル。この二人の心情はよくわからんが、恐らくアリアに多少なりとも気でもあるんだろう。
もしかしてアリア、自分に向けられる感情に鈍い?
……そう言えばアルトのシスコンっぷりもこいつ自覚してるのか?
「で、結局何が言いたかったかと言うと、多分近日中にそっちにエルモが行くから後はオズマに任せる」
「任せるのかよ」
ガシガシと後頭部を掻けば、アリアはただ困ったように笑った。
「ランカちゃんの夢は壊せないからさ、フォローはするよ」
「……反対するな、ってことか?」
「違うよ。オズマが思った通り行動していいって。……結局私には他人の意思までは曲げる力はないと思うからさ」
アリアは暗闇の空を見上げ、ぱたりと芝生の上に倒れこんだ。
「私は私の力で歌手になる。シェリルと同じ土俵に立って、少しでもシェリルの負担を減らしてあげたい」
片手を伸ばし、ぐっと握った拳は決意の表れか―――
「例え未来が変えられないものだとしても、ミハエルだけは死なせたくないの」
下ろした腕に隠された瞼は迷いの表れか―――
「我がままだって判ってるんだけど……私が、嫌だから……ごめんね」
誰に対しての謝罪か、俺はただくしゃりとアリアの髪を撫ぜた。
双子らしく感じた柔らかな髪の感触はアルトと同じだった。
「非常識さには付き合いきれないが、弱音くらいなら聞いてやるよ」
「ぷっ……期待してるよ」
笑う口元と対照的に、腕の隙間から零れる涙が見えた。
アリアの目に映る未来のミシェルはどれだけこいつを苦しめるのだろう。
ミシェルにもアリアにもランカにもアルトにも……若い奴らが笑って過ごせる未来であればよかったのに。
⇒あとがき
弱音を吐く夢主が書きたくなって誰にしようと思ってチョイスしたのはオズマ。
アルトの支えにと選びながら、自分の支えでもあれるような人を無意識に選んでいたって言うのが伝わって……ればいいなぁ(遠い目)
20090727 カズイ