出会

 それはたったワンフレーズがきっかけだった。
 驚いたように俺を見たアルトそっくりの女―――多分アリアなんだろうとすぐに分かった―――がふわっと笑うとすっと息を吸い込んだから。
「What'bout may star?」
 たったワンフレーズに込められた想いに俺は一瞬驚いたが、プロとしてすぐに反応していた。
 アリアはアルトと違ってプロじゃないって思っていたが、彼女もプロだ。
 目が俺に次だと言っていた。
「What'bout may star?」
 答えるように繰り返されるフレーズ。
 なんだこの感覚はと思っている間に最初を奪われていた。
 途中、曲調を変えて別アレンジにしてきたときは一瞬考えてしまったが、考えるより歌が心にあった。
 自然と口が歌を紡いでいた。
 彼女に導かれていくように―――


「……あんた何者だ」
「人に名を名乗る時はまず自分から、ですよ?」
 にこりと微笑んだアリアは、What'bout may starが似合わないキモノ姿だった。
 しかもこんなことを言っているが、俺は知っている。
 アリアがデビュー初期からの俺のファンだってこと。
「シェリル・ノーム。歌手だ」
「私は早乙女有亜と申します。一応はじめまして、と言うべきなのでしょうね」
 くすくすと彼女は笑い、突然「ありがとう」と言った。
「……何が?」
「歌、答えてくださいましたでしょう?」
「歌えって言ったのはあんただろ」
「それはそうですが」
「歌は俺にとって呼吸だから、あんな風に歌われちゃ答えないなんて無理だな」
「ふふ、ですから私は"シェリル"が好きなんですよ」
「……やっぱりアルトの姉貴のアリアかよ」
「そうですけど、"シェリル"と今目の前にいるノームさんは別だと考えますからご安心ください。マナーのなっていないファンじゃありませんわ」
「あんた……まぁ、いいや。ノームさんなんて呼ぶ人居ないしシェリルでいいよ」
「はい、ではシェリルさんと」
「……だからシェリルでいいって」
「すいません、こちらの時はお許しください」
「こちら?」
 首を傾げれば、彼女は着物を軽く撫でた。
「着物を着ているときの私は早乙女有亜なのです。シェリル・ノームのファンの早乙女アリアはそれ以外、と言うわけです」
「……面倒だな」
「無自覚のアルトよりはマシかと」
「……………」
 やばい、素で納得しかけた。
 アルトは有人であることを必死に拒絶しようとしていた。
 有人は女形だからだろうかと考えてみたが、それ以上に何かがありそうだ。
 ま、面倒なことに首を突っ込みたくないから深くは突っ込まなかったが。
「それで、アリアはここで何してるんだよ」
 アルトからアリアの存在を聞かされた時にちょっと調べた。
 アリアが天才少女であることと現在は意識不明の状態で病院に入院中だと言うことは簡単に知れた。
 だからここで出会うなんてことは思ってもみなかったことだ。
「さっき目が覚めたので、これから娘々に行こうかと」
「……さっき?」
「はい」
「なんで病院にいないんだよ!?」
「と言っても本当に寝ていただけですし、娘々に行った後はもちろん自宅に帰りますよ?」
「そうじゃなくて」
 思わずアリアの肩を掴んで怒鳴ろうとしたが、なんだか馬鹿馬鹿しくて口を閉ざした。
 アルトはアルトで変な奴と思ったが、アリアもアリアで変な奴だ。
 双子ってのは男女でも似るもんなんだな。
「……送ってく」
「いえ、大丈夫です。だって、私非常識娘ですから」
 ごく当たり前にさらっと言った自称に俺は思わず額を抑えた。
「いいから黙って送られろ!」
「えーっと……じゃあ、お願いします?」

 小首を傾げたアリアをうっかり可愛いと思ってしまったことを後悔するのはもうしばらく後。



⇒あとがき
 実は娘々の外でシェリルが待ってたんですぜ☆って言う裏話(笑)
 うちのシェリルさんはこんな男前(?)で行きます。
 一応グリフィスパークの丘で偶然出会ったって言う設定なんですが、本文に書くの忘れてました。
20090718 カズイ
res

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