木曜日

 なんとなく……本当になんとなく、ヤンクミって言う先生が気になった。
 それなら従兄弟に聞いてみようと従兄弟の家の前に私は立っていた。
「たのもー!」
「たのもーってなんだよ」
 玄関を開けて出てきたのは従兄弟……ではなく、その友達の竜くんだった。
「あれ?隼人は?」
「じゃんけんに負けて買い出し中ですよ」
 いらっしゃいお姫様とでも言うかのように扇子を手にした男の子が現れて私は驚いた。
 彼はなんと言うか、成長しすぎてしまった高校生と言うか……まあ、老け顔って奴だ。私とは逆だな。
「あー、真菜姉ちゃんだ。ちーっす」
「やだ、啓太くんが大きくなってる」
 久しぶりに会う啓太くんの成長具合に感激していると、「大きくもなるよ」と啓太くんは苦笑していた。
 まあ今が伸び盛りって奴だもんね。
「人ん家の前でなにしてんだよ」
 呆れたような隼人が私の横をすり抜けて家の中に滑り込む。
「ただいま。つーか、とりあえず入ったら?」
 靴を脱ぎながら、一度だけ振り返ってそう言われ、私は堂々と矢吹家に足を踏み入れた。
 矢吹家は男所帯だけあって、一人暮らしでたまに手が回らない私の部屋の数倍は汚い。
 いや、男所帯と一人暮らしを比べちゃいけないだろうけどさ。
「あ、初めまして二人目だ。私、隼人の従兄弟の鳥居真菜です。よろしく」
「日向浩介。よろしくにゃ」
「土屋光。……疑問だけど、同い年?」
「いや、私大学生。君たちの二個上だよ」
 女子大生!と二人が盛り上がるけど、私は女子大生って名ばかりの女なんだよね。
 慎と別れて以来、恋する気が失せて勉強一本のがり勉ちゃんに戻ってしまっている。
 まあ付き合う前よりは身嗜みに気を使うようにはなったけどね。
「ねえ隼人、叔父さんたちは?」
「仕事。後弟は塾と泊りでいねえよ」
「そっか。ちょうどよかった」
「何が?」
「あのさ、黒銀の……って言うか隼人のクラスの先生ってヤンクミって言うだよね?」
「ああ。電話でも言っただろ?」
「それって、山口久美子先生の事で間違いない?」
「そうだけど……なんで真菜姉が知ってるんだよ」
「あ、いや、元彼の元担任らしくてさ」
「はあ!?真菜姉彼氏居たのか!?」
「いっが〜い」
 驚く隼人と啓太に私はむっと顔を顰める。
「どうせ私はがり勉女だよ」
 慎が居たから私の世界は変わった。
 多分慎が居なければ地味で目立たない日陰を歩く平々凡々な人生を歩いていたことだろうよ。
「真菜さん彼氏いたのっていつ?」
「高二の時だけど……それがどうかした?」
 竜くんが指を折り、何かを確認するように数えた。
「じゃあ真菜さんが綺麗になったのは彼氏のおかげか」
「あ、そう言えばそうだね」
 ぽつりと呟くように言った竜くんに啓太くんが同意するようにこくりと頷いた。
「ま、心配しなくてもヤンクミが真菜姉の恋のライバルになることはねえよ」
 隼人がけらけらと笑いながら言った言葉に、土屋くんと日向くんも力強く頷いた。
「何しろこの間のバレンタインデーに俺ら生徒全員とは別のチョコをモモジョのセンコーにやってたしな」
「ホント!?って、恋のライバルとかじゃなくて」
「じゃあなんで突然?」
「……そいつ、今海外に居るんだけど、一時帰国してそのヤンクミに会いに来た筈なの」
「筈って事は会いに行ってないって事?」
「そうなの。近所に友達だっているって知ってるのよ?それなのに会いに行こうとしないし、日中は寝て過ごしてるし……時差ボケがあるにしても夜起きてるなんて不健康だわ。大体なんで別れた彼女の所に転がり込んでくるわけ!?実家と折り合いついてもう家に帰っても問題ない癖にっ」
「……真菜さん」
「はい、なんですか土屋くん」
「もしかして鈍いとかよく言われません?」
「隼人には良く言われるよ。ね、隼人。……そう言えば何で?」
「鈍いのは一生経っても鈍い」
 そう勝手に完結させると、コンビニで買ってきたお菓子の袋を破った。
「どこが!?」
「全部」
「うんうん」
「竜くん!啓太くんまで頷かないでー!!」
 お姉さん悲しくなってくるじゃないか。



⇒あとがき
 極先シリーズで一番好きな2のキャラたちと絡めらえました\(^o^)/
 やっぱりお気に入りは竜くんですが(笑)
20050319 カズイ
20110430 加筆修正
res

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