水曜日
しっとりと水に濡れた髪の水気をタオルで取りながらお風呂から上がれば、ベッドの上に人型の山が出来ていた。
どうやら人がお風呂に入っているうちに眠ったらしい。
つけっぱなしになっていたテレビの電源を落とすべくリモコンに手を伸ばした。
番組は大した事のないバラエティー番組で、私にとっては見慣れている芸能人がずらりと並んでいる。
二年ぶりに戻ってきた慎にとっては見たことのない芸能人も居たようで、さっきまでは「こんな奴居たっけ?」とか「あー懐かしいかも」とか言いながらテレビ見てたはずなのに……
私はテレビの電源を落とすと、リモコンを置いてベッドの側に歩み寄った。
「慎〜」
声を掛けてみるけど、起きる気配はない。
「……あんた本当、何しに帰ってきたのよ」
昨日、結局クマの所のラーメンは食べた。
もちろん嫌がる慎も無理やり引っ張り出して行った。
クマは当然慎との再会を喜んだし、慎だってクマのお嫁さん見ておめでとうって素直に言ってた。
けど、他の皆に言うなよってしっかり口止めしていた。
あんた担任の先生や友達に会うために帰って来たんじゃないの?
「……さっぱりだよ、慎がやりたいこと」
ぐーすかと眠っている慎の頬を私はつんつんと突いた。
どうやら慎は私が眠っている間に起きて本を読んでいるらしい。
私の知らぬ間に栞が先に先に、しかも夜の間にだけ進んでいるのが良い証拠だ。
「突くな」
不機嫌そうにうっすらと目を開けた慎は私の手を掴んだ。
高校の時はそんなに感じる事のなかった大きな手はどこか硬くて、心臓がどきりと跳ねた。
これはきっとボランティアで頑張ってきた証なんだろう。
少し荒れた指先が手首にがさりと滑るのがなんだかぞくぞくした。
「あのね、まだ四時。普通起きてる時間でしょ?」
「俺は寝る」
「夜起きておくために?」
「……さあね」
ふっと笑って、慎は再び目を閉じた。
って言うか待って。手を握ったまま寝ないで。
「私バイトあるんだけど……」
「休めよ」
「起きてるし!……もう、離してよ、本当……」
私たち別れたんだよ?
お願いだから私の胸の中かき回さないで。
⇒あとがき
短いですが水曜日終了。
もうちょっと無自覚いちゃいちゃさせたかったんですけど……諦めました。
20050318 カズイ
20110430 加筆修正
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