「…で?返事も聞かずに帰ってきたの?」

「だって、あれは確実に…!」
「お黙りなさい」


やはり春っちは怖かった。




夜。
なぜかパシリの為だけに御幸の部屋に呼び出された。案の定3年と2年が集まって騒いでいた。ちなみに今回の道連れは降谷ではなく春っちである。降谷はすでに爆睡だった。


「沢村ぁ!ファンタ!」

「コーラ!」
「俺はオレンジな!」

「もぉー!毎度毎度なんなんすかぁ!俺は自販機じゃねぇっす!」

「「知ってる、パシリだろ?」」


「きーっ!声をそろえるなぁ!」



しぶしぶ春市と部屋を出る。先ほど頼まれたものを忘れないように繰り返し呟きながら歩く。


「栄純くん大丈夫?」

「やめて春っち!今大丈夫じゃないからっ!」

「そうじゃなくて、」


ふいっと後ろを振り返った春市にあわせて振り替えると、そこには御幸がいた。

「よぉ」

「…っす」


軽い会釈だけしてまた歩きだすと、沢村、と頼りない声がした。

「話があんだけど」

「…パシられてるんで無理っす」

「じゃあ終わったら…」

「マッサージ頼まれてるんで!無理!」


そういって沢村が走り出した。部屋とは逆方向に。

「…ふふ、いいですよ。俺、優秀なパシリなんで」

「…わりぃ」

「でもこれ以上泣かさないでくださいね、面倒なので」

「…わかった」


御幸も走り出した。


「…ほんと、めんどくさいなぁ」


自然と笑顔がこぼれた。






「沢村っ!待てって!」

「待たねぇっ!追いかけてくんなって…!、のわぁ!!」

「あぶっ…!」


足が疲れてもつれてこけた。けどあまり痛みはなくて、起き上がったら下に御幸がいた。


「御幸!?ごめ」

「このばか!怪我したらどーすんだっ!球投げらんなくなってもいいのかよ!?」
「ご、ごめんなさい…」

あまりの迫力に畏縮してしまった。けれども御幸は真剣だった。


「大事な体だろ、気を付けろ!わかったかっ!」

こくこく、と必死でうなずくと、やっと御幸は満足したような顔になった。

「御幸は怪我してない…?」
「あーたぶん」


土を払って立ち上がると、また御幸が真剣な顔をした。

「沢村、話」


あからさまに肩を揺らすと、そんな構えんなと笑われた。


「…少し歩くか」



歩き出しながら前のように沈黙が漂う。けれども今回は御幸と沢村が同じような顔をしていた。



「あのな、」

「うん…」

「この前お前に言われただろ?」

「ごめん…」

「そうじゃなくて。あれさ、すげぇしっくりきたんだよな、あのとき」

「え?」


「なんつーか、お前の今までの行動とか、ことばとか。そんで、朝起きたら思い出してた。全部」


思わず御幸の顔を見つめると、いつかの自分みたいな不安そうな顔でこちらを見ていた。


「なぁ、まだ間に合う?俺、沢村のこと好きなんだけど、もいっかい好きになってくんねぇ?」


目から大粒の涙がこぼれる。

「え、それどっちの意味…?」

「…ぅ、れしくてだっ!ばか!あほ!めがね!…っめがね!」

「あーもー他に思い付かねぇんだったら無理すんな」

必死に涙をぬぐう沢村を緩く抱き締める。一瞬強張ったからだもすぐに緩んで御幸にからだを預けた。


「ごめんな」

「ほんとだぞ、ばか…」

「すぐ言いたかったんだけど、お前逃げまくるから」
「………」

「ちゃんと言えてよかった。なぁ、沢村も言って」


何をとは聞かなくてもわかった。けれども照れと今までのことが重なって。


「いやだ」

「え、」

「記憶がなかったら俺のこと好きじゃないんだろ」


自分で言って自分で傷ついた。ハッピーエンドになりそうだったのに、意外にもひねくれているのかと気づく。でもそれほど不安な日々を過ごしたのだ。少しくらい拗ねたって許されるだろう。

「沢村、それは」

「俺は記憶なくても、頑張って御幸のこと好きでいるし…!相手する暇ないって、言って、た…!」


思い出すとまた不安になった。呆れられたかとさらに不安になった。

「沢村、聞けって」

「うぅ…っ」

「記憶なくて、沢村のこと忘れてたのは本当だ。でも、きっとまた好きになってた」

「なんでそんなこと、」

「だって俺、好きって言われて嬉しかったんだぜ?明らかに俺を恋愛対象としてみてる男に告白されて、気持ち悪いとか思わずに」

「う、そ…っ!だってなんも言わなくて」

「お前さっさと帰っちゃったじゃん。いきなり衝撃的な事実と告白されて固まらないやつとかいる?」

「う、…」

「言っただろ、しっくりきたって。お前じゃないとだめなんだよ、沢村」


そういって優しく頬を包まれて、優しいキスをされた。
よく沢村にだけ見せていた、優しい笑顔だった。


(この顔だ…。俺の好きな…)


「沢村、好き。沢村も俺のこと好きだろ?」


嬉しそうな、困ったような、泣きそうなような、そんな顔をした御幸がいた。
かっこ悪い御幸がいた。

「うん、好き…!」


思いっきり抱きついた。












「ところでさ、」

「ん?」

「弟くんってやっぱり亮さんに似てんな…」

「あー…うん…」


((こわかったな…))







end

秋さん!リクエストありがとうございました!やっと出来ました。ながーらくお待たせしてほんと申し訳ありません!!もう設定すごくにやけたんですが、初めてのリクに実はあたふたしてしまって、駄文にするわけにはと思いまして…!御幸はどうやって記憶なくそうとか、いつぐらいの時期にしようかとか、どういう風に進めていこうかとか…。もうなにかいてもしっくりこなくて…。やっとできたのがこれです。言い訳ですすいません。結局駄文に…。ほんとはノリとか倉持とかクリスがたくさんでてきたんですけど、収拾つかなくなってしまって…。
期待に添えてるかわかりませんが、よろしければ受け取ってください…!!
リクエストありがとうございました。これからも時計屋をよろしくお願いします。

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