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「倉持先輩、いってきやす!」
「おう、早く行けや」
「いってきやす!」
「何回目だてめぇ!」
春市に言われたように、勇気をもって御幸に事実を告げようとドアの前に立ってから約30分。いくら意気込んでも事を進めない沢村に、倉持が怒号を飛ばす。
「早く行けよこのヘタレ!」
しびれを切らした倉持が、沢村を蹴り飛ばして部屋から追い出した。
ついでに鍵を内側から掛けられたのでもう行くしかない。
「男沢村、決めてきやす!!」
「オーバーワークは決めんなよ」
「うわぁ!?なにやつ!!」
いきなりの声に倉持直伝のコブラの構えで戦闘態勢をとる。なにやつは御幸だった。
「……っす。じゃ」
「おいこら、待て。明日の投手陣のメニュー変更したから見てけ」
「…………あとで、」
そういうと御幸はあからさまに嫌そうな顔をした。せっかく事実を伝えようとした相手が自ら来てくれたにも関わらず、唐突のことで沢村は反射的に背を向けてしまった。
「…お前なんなの?やる気あんのかよ。捕手と投手はパートナーだろ。試合でお前と組むこともあるかもしれねぇのに、なんだよそれ。イラつくわ」
「み、」
「いいよ、お前は明日で。好きにしな」
早口に捲し立てられると、沢村は頭が真っ白になってうまく弁論ができない。こういう怒り方をするときは、御幸が本気で怒ったときだった。
踵を返して帰っていく御幸の背中に、何度も音にならない言葉をかける。
(違うのに、…)
ガチャリ、5号室のドアが開いた。
「御幸!」
中から出てきた倉持の声に御幸が振り返る。
「…なに?」
「……あんま口出すのは好きじゃねぇけど、記憶があったころのお前のために言ってやる」
「は?」
「…沢村ほっといていいのかよ」
意味深な倉持の言葉に御幸は眉をひそめた。
倉持は沢村に強い視線をやって行動を促した。
「倉持、それってどーいうこと?」
「沢村にきけ。俺は狩りにいってくる」
最後に沢村を睨んで、ゲーマーは何事もなかったかのように部屋に戻っていった。
「…御幸、先輩」
「…なに」
「話があるんすけど」
「…わかった。
とりあえず自動販売機のところまできて、ベンチに座る。けれどもさっきの今で空気が悪く、しばし沈黙がすぎた。
「あの…」
「なに、早く言って」
「…御幸先輩に思い出してほしいことがあって」
そういうと沢村は膝の上においた拳を握りしめた。
「なに、そんなに重要なこと忘れてる?俺」
「い、いや、重要かどうかはわかんないっすけど…」
「ふぅん…で?」
御幸の興味なさそうな声のトーンに、沢村は不安で声が震える。
けれど、いつまでもうじうじしていたら、いい加減あの毒舌な友人に嫌われてしまうかもしれないし。
同室の面倒見のいい人たちにも呆れられてしまうし。何しろ、背中を押してくれている人たちに、いつまでも心配かけさせるわけにはいかない、と腹をきっちりくくった沢村は、スコアブック片手に話を聞こうとしている恋人を、強く見つめた。
「俺、実は御幸先輩のこと好きなんです」
「……は?」
「俺と御幸先輩は実は付き合ってて、えっと、だから、」
「…それまじ?」
「…ま、じ」
さっきとは打って変わって間抜けな顔をした御幸に、沢村は焦る。
(拒否られる…?)
「そ、れで!覚えてないのに付き合ってるとか言われても困ると思うんで、もっかい、あの」
「ん?」
「好きになって、欲しくて…」
我慢できずに涙がこぼれた。この一言を言うのに何日もかかったのに、やはり声は掠れて小さくなった。
「………」
御幸はなにも答えない。あぁ、やっぱり駄目だったかと席をたってそのまま沢村は帰った。
「…まじかぁ」
こぼした声はひどくおかしかった。
昨日はさんざん泣いた。倉持先輩にうるさいってなんども怒られたけど、それでも泣いてたらプリンをくれて頭撫でてくれたので満足して眠れた。
御幸とはまだ話していない。
end
ちなみに「…まじかぁ」は私的に御幸の言葉です。でも二人とも思ってそうだなぁとかってな
早くくっつかないかなこいつら 自分で書いてて焦れてる←
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[mokuji]
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