五号室噺
増子先輩が明日卒業する。無事希望の大学にも受かって、4月からは晴れて立派に大学生だ。
「倉持先輩、増子先輩ってどこの大学っすか?」
「あー?確かM大じゃなかったっけか?」
「そっか…」
「どしたよ、寂しいのか?」
わざとらしく、というかわざとにやけた顔で聞いてくる。
「倉持先輩は寂しくないんすか」
「んなわけねぇだろ」
あの人お父さんみたいだし、と言って少し俯く。眺めていた雑誌をめくりながら、でもそれはどこかぼやけていて。ただページをめくっているだけにしか見えなかった。
「俺、なんか返したいんすけど、お金無いし」
「まぁな。てかあの人は金かけたりしたら逆に怒りそう…」
「っすね」
お父さんだし、と二人ハモって笑った。
「なんかねぇかなー」
「なんでも喜んでくれるとは思うけどなぁ」
一番思いつくのがプリンだが、こんな祝いの門出にそんなもんでいいのかと思ってしまう。それにプリンはお別れ会の時に出ると思われる。
「せんぱいぃーなんかアイデア出してくださいぃー」
「んなこと言ったってな…」
散々二人悩んだが、結局良いものが思いつかないまま、悩み疲れて眠った。
明日は卒業式だ。
「なぁ、まじでこれ?」
「まじっすよ!だってお父さんなんだから!」
卒業式も終わって、いよいよお別れ会。当たり前のごとく泣きじゃくってしまった。みんなに笑われた。
「卒業おめでとうございます!」
それぞれの先輩にプレゼントを渡す。俺はクリス先輩に渡した。優しく頭を撫でてくれたから、さらに号泣してしまって。
「沢村、泣くな」
そう言ってポケットティッシュをくれた。新品。
クリス先輩には、故障しないように、と思って手紙と一緒にお守りを渡した。
「また教えてぐだざいっ…!」
「あぁ、もちろんだ。渡した巻物、ちゃんと欠かさず毎日やれよ」
優しい目でそう言ってくれた。あぁ、この人に教えてもらってよかったなとつくづく思う。イップスの時も、勉強で忙しい中来てくれた。それにどれだけ励まされたか。本当に寂しくて仕方がない。
そのあともリーダーやひげ先輩達と言葉を交わして、お別れ会は終わった。
「倉持先輩はお兄さんになにあげてたんすか?」
「あぁ、お守り。お前はクリス先輩になに渡したんだ?」
「へへっ、お守りっす!」
まねすんな、って言われた。絶対俺が先だった!
「増子先輩呼びました?」
「ばっちりだ」
「ふふー泣くかなぁ?」
「ヒャハ!それお前だろ」
5号室につくと、例の物を取り出す。そしてクラッカーも。
しばらくすると足音が聞こえてきて、ゆっくりとドアが開く。
夏に比べて大きくなった身体は、少々ドアがきつそうで。
クラッカーをひいた。
パーンと勢いよく弾けたクラッカーに、少し驚いてこちらを見上げる増子先輩。
「「増子先輩!!卒業おめでとうございます!!」」
少し埋もれてしまっている目を細めて先輩が笑った。
「うがっ!ありがとな、二人とも」
先輩に座布団を用意して部屋に招く。そして例の物を渡した。
「プレゼントっす!」
「増子さん、これも」
渡したのは市販のプリンとお守り。ちょっと体重やばそうだから。といいながらプリン渡すあたり矛盾しているが、そこはスルーだ。
「あと、これ!肩たたたたた…ん?か・た・た・た・き券!」
「うがっ!?」
言いにくいな。
けど増子先輩が思ったより驚いてくれた。
「先輩は俺らのお父さんっすからね!一回10分っす!」
「すいません、増子さん。いろいろ考えた結果、それに行き着きました…」
がばり。
大きな体で二人いっぺんに抱き締められた。
「ヒャハハ!増子さん泣いてんすかー?」
「そんなこと、ないっ!」
「ますごぜんばいぃー!」
「お前もかっ!」
そのままぎゅうぎゅう抱き締められて、増子先輩の制服に鼻水ついたのがばれて怒られた。KYって。
「ありがとう、二人とも。じゃあさっそく一枚使おうかな」
「「はい!」」
まるくてがっしりした肩を揉む。叩く。
決してうまいとは言えない俺達のマッサージを、とても嬉しそうに受けてくれた。
「増子先輩、いつでも遊びに来てください!マッサージあと4回分あるんすからね!」
「うがっ!練習頑張れよ、二人とも。大会応援にいくからな」
「増子さん、食い過ぎに注意っすよ!」
「うがっ!?」
「おーい増子ー、皆でこれから……って、何してんだよ…」
「こいつら本当仲良しだねぇ」
「起こさない方がいいか…?」
(((…うーん………)))
end
イラストの方にきたねぇですけど絵がありやす
イメージ的な よければどうぞ お昼寝中の3人を
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[mokuji]
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