てるてるぼうず
もう梅雨は過ぎたというのに、台風の影響で気圧が安定せずにここんとこ雨続きだ。さすがに煩わしいが、一人だけはいつも通りハイテンションを貫いていた。
「だーはっはっは!御幸一也、俺の魔球を受けたくはないかぁ!」
「魔球じゃなくてへなちょこボールだろ」
「なぬっ!?」
いつまでもしつこくキャッチボールをせがむ沢村も、漸く諦めたのか渋々帰っていった。
明日は練習試合の予定だ。この雨が明けてくれることを祈りながら、スコアブックに目を通す。
「…御幸、」
「沢村?どした?」
俺しかいなかった食堂に、なんだか落ち着かないと目をさ迷わせながら沢村が入ってきた。
「じゃ、邪魔か」
「はは、んなことねぇよ」
「そっか」
そういうと、ちょっと嬉しそうにしながら隣に腰を下ろした。
そのまま何をするでもなくそわそわと俺のとなりにいるもんだから、気になって仕方ない。
「沢村?いっとくけど球は捕らねぇぞ?」
「、わかってる!」
「じゃあどうしたんだよ、そわそわして。何もすることねぇならたまには早く寝るか勉強しとけ?バカなんだから」
「……わかった」
なぜか不機嫌になって立ち上がる沢村に戸惑う。
俺なんかしたか?
わからないけどとりあえずこの場合原因は俺しかない。
「沢村、えっと、」
「悪かったな、邪魔して」
沢村?って顔を覗き込むと、泣き出しそうな顔をしていて内心あせる。
「別に邪魔とか思ってねぇよ」
「……もういい!」
「沢村、何怒ってんだよ」
「、だって!一緒にいたかったから居たのに、寝ろとか勉強しろとか、」
「さわ、」
「最近全然一緒に居られねぇし、でも迷惑ならいい!」
そのまま立ち去ろうとするそいつの手首を、慌てて引き留める。
はなせ!とかって手を振りほどこうとするから、そのまま抱き込んでやった。そしたら少し肩が跳ねたけど、途端に大人しくなって、肩に頭を置かれる。
「沢村?」
「……い」
「ん?」
「寂しい…」
初めて聞いた恋人としての弱音に、思わずにやける。顔見えなくてよかったな…。
でも考えたらあれだけわかりやすいサインを出してたのに、気づいてやれなかったのは痛いところだ。
普段素直にこういったことを言わないこいつは、さぞ勇気を出しただろう。
だからあんな落ち着かなさそうに。
「そっか、寂しかったんだ?」
「…そうだよ。スコアブックばっか見やがって」
「スコアブックに嫉妬すんなって。…でも確かにそうだな、最近一緒に居れなかったな。」
「うん」
「俺だって寂しかったんだぜ?けど言い訳みたいになるけどさ、明日のこととか考えてたら熱中してて、わりぃな」
これは本当のことだ。けれど沢村はふるふると首を横に振って、別に。と答えた。その動作が擦り寄ってるみたいで可愛いとか思ったけど言わない。余計に機嫌損ねるから。
「別に、俺を優先して欲しいわけじゃない。あんたの迷惑になるんなら諦めるし、あんたはキャプテンだし、チームの方が大事だって、俺バカだけどちゃんとわかってる」
「うん」
「…けど、やっぱ寂しかったから、隣に居られるだけでよかったのに…迷惑だった?」
ああ、どうしようかなこいつ。本当は明日のことなんて考えずにこのまま押し倒してやりたいけど、さすがにそれは出来ない。
「迷惑なわけねーだろ?まぁ、そわそわしてたから気にはなったけど」
「…ごめん」
「俺的にはさ、明日わかんねぇけど練習試合あるし、それを気遣ったつもりなんだけどさ」
「うん、わかってる」
「…今からやり直していい?さっきの場面」
やっぱり敵わない。覗き込んだ顔は花が咲いたみたいな、いつもの元気な笑顔とは違う顔で笑って。
気ぃ抜いたら押し倒しそうだ。無自覚だからなお質が悪い。
とりあえずキスぐらいは許されるだろうと思ってしたら、人が来たらどうすんだ!と怒られた。
じゃあずっとハグしてたけど、これはオッケーてことか?
でもそのあとはいつもより素直で、頭を撫でてやると照れながらも嬉しそうにしたり、自分から遠慮しながらも擦り寄ってきたりした。理性を保つのに必死であんまりはかどらないけど、雨続きのいらいらは消えていた。
明日は晴れるかな。
あーした天気になーあれ!
end
最近雨続きだねー。
でもなんか大雨だとわくわくする。
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