ちょっとずつちょっとずつ
沢村が倒れた。
「気がついたか?」
沢村がうっすらと目を開けた。暫くは不思議そうにしていたけれど、俺だと脳が認識したのか途端に飛び起きて、「御幸 一也!」とかなんとか言って俺から距離をとった。
「お前、またオーバーワークしたんだってな」
普段は怒らない俺でも、こう何度も何度も同じことを言わされるとさすがにイラつく。
沢村にもそれが伝わったのか、肩を少し揺らす。
「べ、別にあんぐらい「あんぐらいっつーならなんで倒れてんだよ、なぁ?」
普段との俺の声のトーンの違いに、次はあからさまに沢村が跳ねた。首が縮んでる。
「、すいやせん…でも俺…」
そういって言いにくそうに口ごもる。
なるべく萎縮させないように優しく先を促した。
おずおずと沢村が口を開く。
「…な、なんかしてないと!俺…御幸に前言われたことがぐるぐるして…!それで…」
…やっぱりか。
大体予想はしてたけど、ここまでドンピシャとはなぁ。
沢村のでっかい眼には今にも溢れそうなほどに涙が溜まっていて、必死に溢すまいと下唇を噛み締めている。
「なぁ、俺さ、そんなに迷惑なこといった?オーバーワークしてまで忘れたいくらい?泣くくらいに?」
「ちがう!」
沢村が叫んだ瞬間に数粒涙が溢れ落ちた。
「嫌ならきちんと振れよ」
「べつに!いや、じゃない…けど…」
けど、何?嫌じゃないならなんでオーケーしてくれない?嫌じゃないならなんで泣いてる?なんでそんなに苦しそう?
聞きたいことが一気に沸き出た。
けどどれも口からでなくて、場違いな言葉が自然ともれでた。
「俺、沢村のこと好きなんだけど。」
あれ?って後で気づいた時には沢村がでっかい眼をさらにでかくして真っ赤になってた。
「っ!それ、この前も聞いた!」
「だって返事くんねぇから」
そういうと「うっ、」と言って俯いてしまった。
沢村?って伺うとぽつり、何かいった。
「………ねぇんだ。」
「ん?」
「わかんねぇ。俺、好きとか、よくわかんねぇ!」
「あーつまりそれは俺が眼中にないっつー…」
「ちがう!御幸は、いやじゃない。性格悪いけど!」
おい、とか思わなくもなかったがあながち間違いでもなかったので否定せずに聞いていた。
「み、御幸に好きって言われたの、びっくりしたけどすげー嬉しかったし!けどなんか、なんか最近お前みてるとぎゅーって!なって!」
あーあーまた泣き出した。
「そんで、きゅーってなって、ぐーってなって!それがなんかすげーむずむずして!そんなん今まで感じたことなかったから、怖くて…!」
どうしようこれ。俺の都合の良いように解釈しちゃってもいい?
「なぁ、沢村。それって俺のことが好きってことだろ?」
「………え?そうなの?」
あれ?ちがうの?いやでも好きってこんな感じだよな?あれー?
「これが好き?」
「うん、俺はそう思うけど…」
「そっか…じゃあ俺御幸と付き合うのか…」
いやこれいいのか?何にも知らない純粋無垢な子を騙してるみたいで、さすがの俺でも戸惑う。
いや、沢村だからか。だから、ちゃんと俺のことが好きだって思ってほしいから、自覚してほしいから。
「ちゃんとしろ」
え?て言って沢村が少しビクってなった。
あぁ言い方間違えた。
「いや、えっと、な?ちゃんと俺のこと好きになってほしいなーって」
「うん」
「それでさ、お前俺のこと嫌じゃないんだよな?」
「うん」
「じゃあ俺と手つなぐのは?ハグは?キスはいける?あと…あ、せっくむがっ!!」
途中まで黙って聞いてた沢村からさすが投手と言うべきか、言い切る前に枕がストレートに俺の顔面に飛んできた。
なんだよお前こんなときだけコントロールいいんかい。
天才捕手である俺も反応出来ないくらいの球投げやがって。あ、枕か。
て、そうじゃなくて。
目の前で顔真っ赤にしてる子に答えを聞かねば。
「で?さっき俺が言ったやつは嫌じゃない?俺とすんの」
「最後のやつは聞かなかったことにしてだったら嫌じゃない…はず」
「あそ。じゃあさ、そーゆうこと、俺以外のやつとも出来る?」
ちなみに男な、と付け加えると、少し考えてから青ざめて首が取れるんじゃねぇかってくらいに左右にぶんぶんふった。
あぁ、なるほど。
こいつ、俺のことが好きっつーのを無意識に認めれないんだ。
そうか、じゃあどうしてやろうか?認めれるまで待ってやるか?むりだな。
これはもう、ここで落とすしかない!!
「沢村、好きだ」
「っ!だから!聞いたってば!!」
「うん、だからな?お前認めれねーみてぇだからさ、もう洗脳?してやろうと思って」
「は?どーゆう、「好きだ沢村。好き、好きだ。だからお前も俺のこと好きになって?てかもう俺のこと好きだろ?認めろよ、好きだって。俺は沢村のこと好きなんだからさ、沢村も俺のこと好きじゃなきゃ不公平じゃん?なぁ、好きだよ、沢村」
俺の大告白は成功したようで、目の前の沢村は顔を真っ赤にしてこちらを見つめてくる。
「なぁ、沢村。俺のことちょっと好き、でいいよ。お前が自分の気持ち受け止めて、ちゃんと俺に好きって言ってくれるまで、俺待つからさ。我慢するから、俺のことちょっと好きって言って?ちょっとずつ、俺のこと好きになって?」
そう言ったら沢村はオロオロしだしたけど、もう大丈夫だ。わかる、こいつが俺のこと好きだってことが。
思えば俺にしつこく絡んで来たのも、俺に対する態度だけ雑なのも。
学校の廊下で目があったら、ビクってなってそらすくせにまた目があってたのも、全部。
全部、こいつなりの無意識な愛情表現だ。
そう思ったら今までの記憶全部いいほうに解釈しちまって、ついついにやけそうになる。と同時に、今までの比にならない愛しさが込み上げてきた。
「沢村、俺のことすき?」
「……うん、ちょっと………………すき、です……。」
あは、敬語だ。テンパってんな。
でも俺も今手あせがやばい。
「抱きしめていい?」
「っ、する前に言えよ!」
あ、わり。とか言いながら背中に回した腕に力を込める。待ちきれなくて返事聞く前に抱きしめちまったけど、沢村は一瞬驚くだけで黙って俺を受け入れてくれた。
「御幸、くるしいから」
「うん、すき」
「人の話聞けよ!」
あーやばい。今最高に幸せだって思う。
この腕のなかの存在に、ひどく安心する。
「あーまじ好きだわ、さわむらー。」
「もう、わかったから!俺だって!…す、す………き、です……うん。」
「はっはっは!なんで敬語だよ。いつもの威勢はどーした!」
「うっさい離せ!苦しいんだよ!!」
真っ赤な顔で文句を垂れても、それが照れ隠しだってのは本気で嫌がってない態度からわかる。
今日一日で2回も沢村から「すき」がきけた。
1回目も2回目も小さい声だったけど、それでも伝えてくれたのが涙が出そうなくらいに嬉しかった。
だから、
「ありがとな、沢村」
不器用な君からの、精一杯の告白。end
恋愛初心者な沢村。
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