片想い×片想い=両想い





そういやあいつはどうしているんだろう。
高校を卒業して3年。プロに入った奴らとは遭うことも多いが、大学進学を決めたやつとはここ何年か全く遭っていなかった。
1軍には入れたものの、やはり練習は高校で鍛えたといってもかなりハードなもので。そしてこれも昔から健在、上下関係のもつれ。俺からしたら年上が大半のこのチームで、自分でも自覚のある性格の悪さはあまり好評を得ていない。
なかなか難しいものだ。
そんなことを考えていたときに、ふとあのうるさいピッチャーを思い出した。
先輩の俺を先輩とも思わないような口調で、元気で、馬鹿なあいつはどうしてるんだろうか、と。

(あいつはなんでかあんな態度なのに好評なんだよなー)


考えたら柄にもなく会いたくなって、とりあえず呼び出した。








「なんすか」

「変わってねーな」


連絡を入れると初めは素っ気なかったが、めしおごってやると言ったら途端に食いついてきやがった。さすが沢村、安い。


「好きなの頼めよ。大学生と違って金もってっから」

「あんたの性格の悪さも変わってねーな。ごちになりやす」


口はあれでも律儀に挨拶する辺りは沢村らしい。なんだかおかしくて笑うと、なんだよ、と言いたげな目で見つめられた。


「美味いか?」

「うん、まぁ……一口いる?」

俺が見ていたのを勘違いしたのか、ハンバーグを一口分フォークに刺してさしだしてきた。


「……いいの?」

「ん?うん、ほら」


素直に口に入れてもらうと、デミグラスソースの味が口いっぱいに広がった。特別美味しいとは思わないが、沢村のうまいか?って言うのを聞いたら、美味しいとしか言えなかった。
相変わらずの笑顔に、こちらまで表情筋が緩む。
鳩尾の辺りからむずむずが這い上がってきて、あぁ、懐かしいと思う。こいつに無性に会いたくなったのも、未だに心の片隅にある、片想いのせいなのかなぁ、なんて。


「なに笑ってんだよ」

「んー?いやさ、やっぱ俺、お前のこと好きだなーって」


がたんっ!と机にひどく足をぶつけた沢村が、信じられないと言ったような顔で見上げてくる。


「きもちわるい?安心しろよ、好きになってほしいなんて思ってねぇから」


嘘だけど。出来ることなら、高校のときからの片想いを実らせたい。けど、男同士だし、恋愛ってもんに疎そうなこいつに、そこまで期待はしていない。これから攻めようとは思ってるけど。


(まぁ、でもこれで本気で拒否られたりしたら、諦めつくかな)


そんなことを、内心少し緊張しながらも平静を装って、沢村の様子を伺う。
目を泳がせながら、さほど詰まっていないであろう頭で必死に考えてんだろうなぁってのが伝わってきて、やっぱり沢村だなぁと思う。

(態度でけぇのに変なとこ律儀で、)


「あの、…え、っと、御幸先輩は、俺のことが好き?」

「うん」


普段入っていない敬語が入っていて思わず笑ってしまったけど、テンパってるのか、お咎めはなし。


「それって、どーいった意味で…」

「手繋いだり抱き締めたりキスしたりあとセッむがっ!」


ったく、あぶねぇな。今時男子大学生がセックスなんて言葉で赤くなんねぇだろ。まぁハンバーグまた食えたのは良かったけど。


「あんたのそーいうところがむかつくんだよ!」

「はぁ?聞いてきたから答えたのに」

「うっ……。てかさ、それって気の迷いとかじゃ」

「んなわけねぇだろ」

「そ、そっか…」


気の迷いな訳がない。そうだったら俺はこの気の迷いに5年近く悩まされて片想いしてることになる。そんな馬鹿な。ふざけんな。

「そんな軽い気持ちじゃねぇよ」


びくっと肩を揺らした沢村が、なんだか泣きそうな顔で顔をあげたから、あぁ少し口調がキツかったかと反省する。沢村は意外とナイーブだ。


(けどあんな言い方ひどくねぇ?)


ひとりふてくされてると、沢村がうつ向いたままぽつぽつと言葉をこぼす。それがすごく頼りなげで、不安そうだった。


「俺、すきなひとがいるんだ」

「そっか…」

「そいつのこと、大分前からずっとすきで、でもそいつすげぇもてんの」

「ふぅん…」


今の俺は不機嫌を隠しもしないで、頬杖をつきながら相槌をうつ。さぞ態度が悪かろうが、自分のことを好きだと言った相手の前で他のやつのノロケを言うなんて、無神経にも程があるだろうと思って拗ねたって仕方がないと思う。俺は悪くない絶対。


「顔はまぁ、いいと思うけどさ、性格悪ぃし眼鏡だしもみあげだし。けど野球すっげーうまいからなんも言えなくて、」

「…ん?」

「それに俺がすきって言っても迷惑だろうし、本気になんてとってくれねぇだろうなって思ってたけど、」

「さわむら、」

「俺、やっぱ好きだなぁって、今、思った…」

「えっと、それはつまり…?」


「…好きです…御幸一也が」


あぁ、ほんとこいつって予測不可能。
こんなに俺のポーカーフェイスを崩すのってお前と野球以外ねぇよ。
嬉しすぎて言葉が浮かばないし、沢村は沢村で照れに必死に耐えてる。机に突っ伏して。
妙な沈黙が流れたけれど、それには気まずさの中に初々しさが混じっていて。中学生の恋愛かと思ってしまう。今時中学生でもこんなではないだろうな。ホントに情けない。
遊ぶことはあっても本気の恋愛をしてこなかったツケが今回ってきた。
けど、これで良かったのかもしれない。後悔はしていない。どっちも野球バカで良かった。逢えて良かった。だってこんなに幸せだって思ったことはないから。

「沢村、言っとくけど俺初恋だからな」

「俺もっすよ……」

「まじか」

「まじだ」


やっと顔をあげた沢村が照れた顔ではにかむ。最強だなおい。


「御幸、あのさ、」

「ん?」

「今までの分、いっぱい取り返そうなっ!」


あー駄目だ、いろいろとやばい。溢れてやばい。今までの分が溢れて沸いて爆発して。


(かわいすぎだ…)


「俺、今日御幸が誘ってくれてよかった。じゃなきゃずっと知らないままだった。こんなに嬉しいと思わなかった」

「沢村、」

「……やべ、泣きそう。しあわせすぎだ」

「うん、俺も。帰ろうぜ、抱き締めたいから」


一瞬固まったけど、すぐに笑ってうなずいて。
早くその紅い頬を撫でたい。沢村が言うように、今までの分いっぱい、大切にしたい。


「っ、みゆき、…ありがと、」

「うん、でもまだ泣くなよ?もうちょっと我慢な?」



とにかく早く店を出て、抱き締めて頭を撫でて涙をぬぐって。
そんで、今までの分を取り返そう。



「沢村、ありがとう」







(すきだよ、)





end

ありがとうにいろんな意味を込めてみたが表現出来てるかな?



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