鈍感はある意味才能
「土方さん。」
「ん?どうした総悟。」
「土方さん。」
ぽたっ
そこであからさまに土方さんの目が見開かれた。
「そ、総悟……!?」
どうしたんだ、と言って俺の目尻を拭う。
あぁ、泣いていたんだとこのとき初めて気がついた。
「土方さん…。」
「な、なんだ!?どっか痛いのか??」
相変わらずの俺に土方さんはただただ困惑するばかりで。
それでも俺の涙を拭うことはやめなかった。
「っ…!」
嗚咽が漏れる。胸がぎゅうっと締め付けられて、どうしようもなく悲しい。
なんで自分は女じゃなかったんだろうか、なんで自分はもっとマシな出会い方をしなかったんだろうか、なんで土方さんは女じゃないんだろうか、なんで、なんで…
俺は土方さんを好きになったんだろうか。
あんなに嫌いだったのに、今でも十分嫌いなのに。
俺は今までこういう経験がないから、どうやって処理したらいいのかわからない。この気持ちも自信を持てるほどはっきりしていないし、わからない。
わからない。
なんで、土方さんが自分を好きだったらいいな、とか。
わからない。
この人のことは十分嫌いだけど、きっとこの気持ちを伝えたとき拒否されたら、自分は辛いだろうなぁと、容易に予想ができる。 だからこの気持ちを伝えていいのかわからない。
でも伝えないと、いい加減心臓が持ちそうになかった。
「………た、さん……。」
「ん?どした、大丈夫か?」
本当に心配そうな顔で、声で問うてくる。
そんな顔させたい訳じゃないから、俺はしっかり腹をくくった。
ちゃんと目を合わせた。たぶん赤くなってるそれを、土方さんの暗い藍色の瞳に合わせた。
「今から、俺がなに言っても、…っく、き、嫌いに、ならない……!?」
嗚咽混じりに呟いた声だった。うまくしゃべれなくて焦った。呼吸がうまくできなかった。声が震えてた。
でも土方さんは笑いはしなかった。
それがなんだか無性に嬉しかった。
土方さんが静かにうなずく。
ほんとに?ともう一度訊ねると、次は力強くあぁ、と言ってうなずいた。
一度深く深く深呼吸して、
「えっ…………?」
もうだめだと思った。
涙が滝のように流れてきた。そんな顔見られたくなかったから、走って逃げようとしたら、
「それ……マジ……?」
ぷちんっ
「悪かったですねぃ、マジで!!さっきの忘れてくれていいでさぁ…!!死ね土方クソヤロー!!!」
ヤケクソだった。
息切れするほど叫んでやった。
なんだよ、もっとマシな反応しろよばか、ばーか!そりゃありえねぇけど…。
「じゃ、もう俺行くんで!」
なんかもう涙も一気に止まった。くそっ。
「いや、待て待て落ち着け。」
いやお前が落ち着けよ。目ぇ泳ぎすぎ。
「それ、お前ほんと?」
「あ"?」
「いやいやだから、悪戯とかじゃなくて?」
「そうだって言ってんでしょーが!」
「……そか……。」
すると土方さんの泳いでいた目が止まって自分のとあった。なんだか気恥ずかしくて逸らそうとしたら、逸らすな、ってまた力強く言った。
「な、なに………。」
「俺も、これ冗談なんかじゃねぇから。」
「は?」
なにいきなり…という言葉は最後まで言い切れなかった。
「俺も、好きだ。」
「……………え?」
「だーかーらー、俺も「わ―――!!ちょっと待てちょっと待て、ちょっと死ね!!!」
「んでだよ!?」
頭を抱え込んだ。
嘘だっ、ありえないこの人がそんな。だって花街の常連客のこの人が、俺みたいな…。
「総悟、」
呼ばれて反射的に顔をあげた。
いつになく真剣な、穏やかな顔がそこにあった。
「好きだ。」
ぽたっ
ぽたぽた
また泣かされた。だからこの人は嫌いだ。いったい何人の女?を泣かせてきたのやら。
何回俺を泣かせてきたのやら。
ぽたぽた
「俺、もっ……ひっ、じか、…っさん、好きっ。」
「知ってる。」
そう言って優しく抱き締めてくれた。
優しい顔だった。
(はたから見たら両思いって分かるっつーの!)
by 山崎
山崎は密かに応援してました。←たぶん
土方と沖田ってきっとどっちも鈍いけど、土方さんのほうが鈍いといいなぁ。
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