雨の邪鬼
俺ぁ、雨の日が嫌いでさぁ。
なんでかって言うとよくは分からねぇんだけど。
まぁきっと、じめじめしてるからとかかねぃ。
そのときは、そう思っていた。
「土方さぁん、死んでくだせぇ。」
何時ものようにそう言いながらバズーカを放つと、土方はお決まりのように間一髪のとこで避け、怒鳴る。
「おい総悟てめぇ!!」
そして沖田もお決まりのように逃げる。土方から。
毎日毎日それの繰り返し。飽きることなく続けられるそれは、最早日常と化していた。
今土方たちはその辺の屋根で雨宿りをしている。
雨。朝はうざったいほどに晴れ晴れとしていたのにも関わらず、今はうざったいほどに空に灰色が厚く滲み、バケツをひっくり返したような雨が降っていた。
それを見て、土方は思わず舌打ちをする。
「土方さん、雨が降ってまさぁ。」
そんな事言われなくても分かっていると言うのに、沖田は相変わらず変なことをぬかす。それにまた腹が立った。
「くそっ、やっぱり車でやりゃあ良かったか。」
生憎駐車場に置いてきた車の事を考えながら、本日何本目かも分からないタバコに火をつけた。
愚痴を溢す土方に対し、沖田は何の気なしにただぼーっと曇天の空を見上げている。
(雨は…嫌いだったはずなのにねぃ…。)
通り雨だと願っていたが、何分たってもやまない雨にしびれを切らし、
「総悟、車ん所まで走っぞ。」
と土方は言ったのだが。
「えー、だりぃでさあ。」
と沖田は反対の声をあげる。
いいから行くぞ、と半ば無理矢理引っ張られたので渋々沖田は従った。
当然濡れる。
しかもバケツをひっくり返したような雨だ。もちろん、肌にも雨の冷たさは伝わっていて。
「っくしゅんっ!」
何処からともなく聞こえた音に眉をひそめながら土方が顔を向けると、そこには鼻をすする沖田がいた。
「………大丈夫か?」
そう問えば、何が?とゆう風な表情をして、その表情通り、「何が?」と聞いてきた。
「お前だよ。………ったく、自分の事に無頓着なんだから……。」
「うるさいですぜぇ、土方コノヤロー。」
「んだ総悟てめぇ、人が心配してやってんのにs「土方さんのせいでさぁ。俺ぁ、だから嫌だって言ったんでぃ。」
土方の文句を遮ってそう言うと、土方は諦めたように前を向く。
「っくしゅんっ!」
また聞こえた音に、土方は眉を寄せながら溜め息を吐くと、後部座席にあったタオルを取って沖田の頭に向かって投げ付けた。
「おら、拭け。頭。」
そう言うも、一向に拭こうとしない沖田にもう一度同じように促す。
「拭けって。」
「拭いても同じでさぁ。」
「少しはマシだろ。ほら。」
そう言い、過保護な男は結局自らが拭いてやる。
乱暴ながらも丁寧に拭いていくのを感じて、やはりこの男は自分に対して過保護だなぁ、と改めて思う。
「痛くねぇか?」
「土方さん気持ち悪りぃ。」
「あぁ?」
眉をかしげながらも頭を拭く手は止めない。
「さっきまでは俺に雨がざざ降りのなか走らしたり、瞳孔開いたまま刀振り上げて追いかけてきたり、まぁ、いつも開いてるけど、サボり見逃してくれなかったり、散々俺を虐めてたくせに…。」
おいっ、さりげに失礼なことぬかすなよっ!つかサボりは見逃したら駄目だろ!!
という土方の抗議染みた言葉を無視して沖田は続ける。
「今は頭拭いてきたり、心配してきたり。気持ち悪りぃでさぁ。」
「じゃあ自分で拭けよ。」
そう言って手を離そうとする土方に
「でも自分で拭くのだりぃんで、土方さんが拭いてくだせぇ。」
そう言うと、また土方は文句を溢しながらも沖田の頭を拭いてやる。
「ったく、なんなんだよお前は。」
溜め息が聞こえたが、無視することにした。
雨の日は嫌いだ。
じめじめしてるし、土方さんは変だし。
けれどもそれを嬉しいと思う自分に一番嫌悪する。
あぁ、やっぱり雨の日は嫌いだ。
(帰ったらちゃんと風呂入って身体温めろよ。)
(へぇへぇ。)
(あと、お前何時も頭拭いてねぇけど、ちゃんと(あぁ、もう分かりやしたから。)
(人の話はちゃんと聞けって……ったく。)
((はぁ、ムカつく…。))
end
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