ありがとう、そして






最近は暑くなってきたなぁ、そう思わずにはいられない今日この頃。
屯所内でも例外なく、そう溢すものは少なくない。

「はぁ、最近は暑いですねぇ。前まで少し肌寒いくらいだったのに。」
「うるせぇ、山崎ぃ。てめー無駄に喋って二酸化炭素出すんじゃねぇよ。気温上がんだろぃ。」
「えぇ!?」

普段は寒がりな沖田もいきなりに近い気温の変化に付いていけてないようだ。
山崎はそんな沖田にこき使われ、只今沖田様を団扇で扇ぎ中。


「そういや沖田さん、今日なんかありませんでしたっけ?」

なに食わぬ表情でそう問いかけるも、沖田は依然として答えようともしない。喋ることすら億劫なのか。そう思って顔を覗き込んでみれば、暑さのせいなのかなんなのか、少し頬を上気させて目を背ける。
「沖田さん?どうしたんですか?」
「………別になんでもねーよ。つかアイス買ってこい山崎ィ。」




はぁ……まったく、どうしたものか。

そう思いながら山崎はため息を吐く。


………はぁ。
本当に、素直じゃないんだから…。












いくら恥ずかしいからって、好きな人の誕生日くらい素直に祝ってあげればいいのに。



そう思わずにはいられない山崎だった。







「沖田さん、いいんですか?ちゃんと言ってあげた方がいいと思いますよ?」
「…………うるせぇ。」








今日は土方さんの誕生日。山崎がさっきからしつこいのは、俺が土方さんとそーゆー関係だからだ。
別に山崎だってたかが上司の誕生日をそこまでしつこく祝わせようとはしない。でも"たかが"じゃないからこうやってしつこく言ってくるのだ。




あぁ、そうでぃ、俺は素直じゃない。
そんなの自分が一番知ってんでぃ。
知ってるけど、直らないんだから仕方がない。
それに、どうせ土方さんはそうゆう事、仕事に追われて忘れてるだろうから言ったところで無意味だ。
もし言ったとしても、「おぅ、さんきゅ。」で終わる。絶対。











夜。
結局何も言えないまま、そろそろ今日と言う日が終わろうとしていた。




沖田は廊下を歩く。
暑くなってきたとは言え、壁のない廊下はやはり冷えて、沖田の足先を冷やしていた。
ひたひたと、向かうはきっと祝日続きで仕事が増えて缶詰め状態になっているであろう上司のもと。





べ、別に祝おうとか思ってないんでぃ。仕事手伝うふりして弄ろうと思ってんでぃ。



誰も聞いてない言い訳を心の中で繰り返す。




"沖田さん、言ってあげた方がいいですよ?"




くそ、なんで俺がわざわざ……。山崎め、変に気ぃ使ってんじゃねぇよ。




そうこうしているうちに目的地へと着いてしまった。思わず生唾を飲んだ。



「…土方さん、起きてやすか?」

変に緊張してしまって普段はしないような気遣いをしてしまった。
けれど土方は少し驚いたようだったが、いつも通りに返事を返してきた。
「あぁ。」と。

スーっと障子を開けると、予想通り仕事に勤しんでいる土方がいて。

まったくこの人は、と半ば諦めて部屋に入る。



「寝ないんですかぃ?」

どうせ答えは決まっているけれど。

「あぁ、もう少しな。」

案の定、肯定であるようで否定した言葉が返ってきた。


………どうしよう。こんな状況で言っても絶対スルーされる。
てかなんで言わなきゃいけないんで?いい歳こいた野郎をなんで祝わなきゃいけないんで?あぁそうか、山崎だ。よし明日血祭りにしてやろう。


沖田は理不尽に山崎を恨み、少しでも自分の緊張を解こうとした。
山崎がその事によって密かに身震いしているとも知らずに。



「それより、何の用だ?」

さらりと聞かれた問いに思わず胸がどきりとする。

「べ、別になんでも………。」

「? じゃあ早く寝ろよ。」

土方は口ごもる沖田を不審に思いながらも仕事はやめようとしない。


ったく、誰のせいでぃ。俺ぁ、あんたが祝われたいだろうなと思って来てやったたのに…。



沈黙が続く。沖田は堪えきれなくなってとうとう話を切り出した。


「……土方さん、今日なんの日か分かってやすか?」
「あ?今日って…5月5日?」
「そうでさ。」

「………ゴールデンウィーク……?」


考える素振り見せといて答えそれかよ!せめてこどもの日って言えよ!と沖田は心の中で叫んだ。


ため息ひとつ、
「あんたの誕生日でしょ、忘れねぇで下せぇよ。」


諦めてそう言うと、言われた相手は目を見開いて数分、顔を綻ばせて数秒後、「ありがとな。」、それだけ言って抱き締めてきた。


「ッ……!」

「覚えててくれたんだな。」
顔が熱くなる。
心臓がばくばくと脈打って苦しい。

「お、俺は別に…!山崎が言えって言うから……。」
「でも覚えてたんだろ?それに無理して来なくても良かったのにわざわざ来て…。あ、もしかしてずっと動かなかったのって「土方死ねぇえぇぇ!!って念じてたんでさっ!!」

「オィイィィ!!てめぇ、どゆことだ総悟ぉ!!」


土方の問いかけを無視して肩口に顔を埋める。
煙草と石鹸と、土方自身の匂いがして、さらに心臓は激しく動いたがなぜか無性に落ち着いた。

「…。お前って素直じゃないよなぁ。」

「うるせぇ、土方。あんたに言われたくねぇや。」

「…………。」


土方のため息を聞いてから、ぎゅっと土方の着流しを掴む。


「………誕生日、おめでとうございやす……。」


消え入るような小さな声だったが、土方がそれを聞き逃すはずがない。
顔は自然と緩んで、腕の力はさらに強くなった。


「ありがとな。明日ケーキ買って一緒に食おうぜ。」
コクンと頷いて沖田も腕に力を入れた。












ありがとう、そして


(祝ってくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。)
(生まれてきてくれてありがとう。出会ってくれて、ありがとう。)







end.
2012.5.5.






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