お前らもうちょっと自己管理しろよ馬鹿共





「倉持先輩!ちわっす!」

「……ちっ」

「なんすかその舌打ち!せっかく恋人が会いに来たのに!」

「飲みすぎだてめぇ。そして黙れ」



大学に入ってから働いてる居酒屋は、それなりに忙しいけど充実してる。まかないは美味いし時給もいい。バイト仲間もいい人ばかりだ。
ただひとつ嫌なことと言えば、こいつが俺をからかいに店に飲みに来ることだ。


「沢村ーお前飲みすぎ。倉持にあとで怒られるぞー?」

「へへっ、大丈夫っすよぉー御幸先輩」


沢村は見た目通り酒に弱いが、これはいつも通り絡みもうざかった。ここで飲み潰れて俺が引きずりながら家まで連れて帰る。一緒に住む前は一応遠慮があったのに、一緒に住むようになってからはこの様だ。甘えてくれるのは彼氏として嬉しいところだが、酔ったときしか来やがらない。しかも次の日にゃ忘れてやがる。
もう慣れたけど。


「沢村寝んなよ。お前寝たらなかなか起きねぇんだから」

「へい!りょーかい!」

「倉持くんやさしー」

「うっせ眼鏡。………手ぇ出すなよ」

「わーってるよ、信用ねぇなー」

「御幸だからな」

「ひどくない?」


御幸に言われても否定しないのは、こんな酔っぱらいでも連れて帰ってやろうと思ってる自分がいるからだ。
むかつくことには変わりないけど、バイト中でも恋人の顔を見れるのは嬉しい。いや、沢村の場合は危なっかしいから安心する、か?






バイトが終わって店を出ると、御幸が沢村を抱えて待ってた。
やっぱり寝てる…。


「悪ぃないつも」

「そう思うならもう少し強く言っとけ。お前沢村に甘すぎ」

「おめーもな」


御幸から沢村を預かると酒臭さが漂う。そして熱い。

「沢村起きろ!重いっ!」

「無理だって」

「…ちっ」

「じゃあ俺はこれで」

「ちょ、おま、手伝えくそ眼鏡!」

「はっはっはっ!」



最悪だ。あのくそ眼鏡まじで帰りやがった。まぁこれもいつも通りか…。くそ、重い…。
沢村は男だ。野球もやってるから体もしっかりしてる。チームメイトよりは華奢だけど、重いものは重い。実はこいつを家まで運ぶのが一番嫌だったりする。

「沢村起きろ、重い」

「んー…」

「おーきーろー!」

「ふへへ、」

「てめ、寝たフリか?」

「せんぱい、おつかれさまれす」

「おー。ほら、帰んぞ」

「んー…だっこ!」

「帰ってからな」

「おんぶ!」


もういいや、めんどくさいこいつ。とりあえず起きたから引っ張りながら歩く。人はあんまり居なくて、夜風が気持ちいい。
沢村は相変わらずふらふらふわふわしてる。


「沢村、あぶねぇ」

「へへっ、せんはいはしんはいしょうらなー」

「はいはい、ほらこっちだっての」


手を引いて軌道修正する。
ふらふら、ふらふら、本当にこいつは危なっかしい。周りに保護者はたくさんいるけど。いつの間にか。

「せんぱい、いえかえったらやきゅーしよ」

「家じゃ野球はできねぇよ酔っぱらい」

「よっぱらいらない!さわむらえーじゅんにじゅっさい!しゅみはやきゅー!」

いきなり自己紹介を始めやがった。もういいや、ほっとこ。人そんなにいないし。

「ボリュームだけ下げろよバカ」

「すきなたべものはいろいろ!すきなひとはくらもちせんぱい!」

「ちょ、」

「くらもちよーいちせんぱい!よーいちせんぱい!」

「わーったからやめろバカ!」


人はいないと言えども、公衆の場でなんてこと。告白は嬉しいが、恥ずかしいのでやめていただきたい。出来れば素の時にやってもらいたい。

「沢村、帰んぞ」

「よーいちせんぱい!」

「…………えーじゅん?」

「ふっふー」


嬉しそうに笑いやがって、こっぱずかしい。
でもまぁ、たまにはいいかな。
素の時にいってほしいとか言ってる場合じゃない。この状況を楽しまなくては。

「帰ったら俺も飲むかな」

俺も酔って、そんでいつもより素直になって。




久しぶりに甘えよーかなー。









(せんぱいーおもいー)

(んー…)

(せんぱい、おやすみー)

(んー…)





end

次の日二人とも二日酔いで御幸に世話やいてもらうの。


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