順番待ち。
「てめぇはなにきょどってんだ!恥ずかしいからやめろ!」
「だ、だって!俺、遊園地とか初めてっす!人がいっぱいで…」
「僕も…」
もう流石としか言いようがない。田舎と言うより、こいつらは大自然の中で育ってきたんだとつくづく思わせられる。
今日は滅多にない休みと言うことで数名で遊園地に来ている。とは言っても、はじめは沢村が行ってみたいと言い出して、じゃあ二人で行くかとなったのだが。
―――「先輩先輩!降谷も行ったことないんだって!どうせだから皆で行きやせん!?大勢で行った方がもっと楽しいだろうし!ねっ?ねっ?」
「あーはいはいわかったわかった!皆でな?とりあえず落ち着けバカ」――――
…ということになった。まったくデートだなんて考えてやがらないので、こいつの意識の低さには呆れを通り越して尊敬さえ覚える。でも確かに大勢の方が楽しいし、沢村が喜ぶならいいか…なんて考えてしまってる俺はそろそろヤバイのかもしれない。甘やかしすぎか…?
まぁ昨日の晩から嬉しそうにしてたので、こちらもちょっと嬉しくなってしまったのは内緒だ。
「春っち!あれ死んだりしないの!?逆さになってる!!」
「大丈夫だよ、普通にしてたら」
「なにそれ怖い!!」
「沢村ーはしゃぎすぎてこけんなよー」
「うるさいバカにすんなっ」
「はっはっは!だってバカじゃん」
「ぬわにぃ〜!?」
なんだかガキ連れて遊びに来てる親の気分だ。一個しかかわらないのに…。
今日の面子は(省略)だ。沢村と降谷以外は放っといても大丈夫そうだ。御幸はアレだけどあいつら二人みたいにバカではないし。ノリたちはいつも通りほのぼのしてそうだし。金丸たちはしっかりしてるし。
「先輩!あれ乗りやしょう!あのぐるんってなるやつ!」
「へーへー」
「先輩、なんか嬉しそうっすね!どうしたんすか?」
「べーつにー?」
そんなにはしゃいでくれたら、こっちも嬉しくなるっての。恋人な雰囲気にはならねぇけど、せっかく来たんだ、思いっきし楽しんだらぁ!
「沢村、ビビって気絶すんなよな!」
「し、しませんよ!先輩こそ、怖がって泣かないでくださいね!」
「安心しろ、ぜってぇならねぇから」
いつの間にか闘争心を燃やしていた俺たちは、早々に一番前を陣取った。
………は、良かったのだが。
「はい、沢村の負けー」
「うぅ…気持ち悪い…」
気絶こそしなかったものの、慣れないものに乗ったせいで酔ったようだ。
今はベンチで休憩中。他のやつらには大丈夫だからと、先に行ってもらった。 自販機で買ったポカリを頭に当ててうーうー唸ってる沢村の背中を撫でてやる。
「吐くなよー。吐くならトイレ行けよ」
「はい…」
「医務室でも行くか?」
「いやそこまでは…あ、でもその方が先輩遊べますね。じゃあ医務室に…」
少し寂しそうに沢村が言う。こいつは変なところで気を遣うからな。普段はあんなに生意気なのに。
「あほ、俺は心配して言ってんだよ。てめぇが大丈夫なら…」
「?」
そこで沢村が不思議そうに覗き込んでくる。相変わらず顔が青い。
「大丈夫なら…なんすか?」
「いや、やっぱなんでも…」
「俺にははっきりしろって言うのに!」
「……。……いっしょに…」
「?なんて?」
「お前が大丈夫なら…、一緒にいてぇなって…」
あ、青から赤に変わった。信号かよお前の顔。
「……先輩顔赤い」
「おめーが言うな」
「………」
「………」
なんだこれは。いつもはこんなじゃないのに。あぁそうか、遊園地効果だな。そうだそうだ。
そうしてると沢村もさっきより良くなったみたいで、そわそわしながらにやにやしてやがる。腹立つなオイ。
「…先輩、」
「んだよ」
「俺、今すっげぇ嬉しいっす」
あーそりゃな。見てりゃわかるっての。顔に出すぎ。
「俺、先輩に迷惑かけてるかなって思ったけど、でもふたりで居たいなって思って、だから嬉しいっす!一緒にいれて」
あーあー全く、こいつは好きとかそんなのは恥ずかしがって言わねぇくせに、こう言った恥ずかしいことは恥ずかしげもなくさらっといいやがる。こっちの身にもなれってんだ。
「じゃあ二人だけで行けば良かっただろ」
「いやそれはちょっと…」
「あぁ?嫌なのか」
「いやえっと……………」
ぽりぽりと頬をかいてそっぽを向いてしまった。そんなことされたらますます気になるっての。
「なんだぁ?言わねーと帰ってからコブラツイストか。いや、やっぱお決まりのスパーリング…」
「やだやだやだ!」
「じゃあ言えコラ」
軽く凄むと首をちぢ込ませて沢村が小さくなる。なぜかほっぺたをぐるぐる手でマッサージ?したあとに、息を吐いて。
「…………恥ずかしいから」
「は?」
いやいや、恥ずかしい?何が。デートか?いやいや。
「なにが」
「デート…」
「なんで」
「なんでっすか?」
「俺が聞いてんだよ!」
はぁー疲れる。なんじゃこりゃ。
「二人きりだからか?でも今だって二人だぞ?しかもお前もっと恥ずかしいことして」
「わ―――!!ストップストップ!!」
「なんで恥ずかしいんだよ」
「いや、なんか、なんか…先輩と二人で、とか考えたら…なんか恥ずかしくて…。でも一緒に出掛けたかったから…その」
「降谷たち誘ったってか?」
「うん…」
なんなんだこいつは。沢村栄純だ。いやそうじゃなくて。
「…てっきりお前はデートなんて考えてないのかと思った」
「うっ…」
「あ?なんだその反応」
「いや…春っちに話したら、そう言われて…ちょ、ため息!」
「あーもういいわ、めんどくせぇ」
「え、ごめ」
「せっかく邪魔がいねぇんだ、今のうちにすんぞ」
「な、なにを…」
「デート!気分も良くなっただろ。ほらいくぞ」
そういって無理やりに沢村の手をひく。完全回復ではないだろうが、もう知らん!普段振り回されてる分、振り回してやる。
「ちょ、先輩!手!」
「あん?」
「人がたくさん…」
「誰も気にしちゃいねぇよ。あ、俺あれ乗りたい」
「吐く!吐いちまう!!」
「じゃあどれがいいんだよ」
「えー?………じゃあ、あれ!」
「観覧車か?まぁ、完全回復してねぇからな。んじゃいくぞ」
沢村の手をさっきよりもしっかりと握る。照れながらも握り返してきた手が愛しい。
豆がつぶれて、堅くて、大きさだってあんまり変わらないのに。
それでも、大切で仕方がない。
「先輩、さすがにそろそろ手は…」
「むり」
「先輩!」
「…じゃあ、観覧車ん中でお前からキスしてくれるってんなら、いいけど?」
「ぎゅっ…」
なんだぎゅって。猫目になんなオイ。
「…わかりやした」
「ん」
少し残念だが、約束なので手を離してやった。沢村は約束はわりと守る。まぁ、破ったらしめっけど。
「そのかわり、先輩からも…」
「あー?なに、聞こえねぇ」
「先輩からも!き、キスして、そんで、ぎゅーって、してほしい…」
…こいつ、わざとか?誘ってんのか?
俯くあたまからは表情は読み取れない。けれど、覗く耳は赤くなっていた。
「いくらでもしてやんよ」
「!…へへっ、うん!」
嬉しそうに沢村が笑った。今日は楽しいな。
…とりあえず、俺の理性もつのか?
観覧車に乗り込むまであと二組。
end
なんか収受つかなくなって長文に…。
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