遠足の前の日
「沢村重い。どけ」
「いやっす」
「シメんぞ」
「いやっす」
さっきからずっとこのやり取りである。
と言うものの、なぜそんなことになっているか。
(知るか俺が聞きてぇわ!!!)
自主練が終わって帰ってきてみると、いつも夜中近くまで自主練でいない沢村が部屋にいた。
それはまぁ別に構わねぇ。馬鹿みたいに毎日遅くまでするのがいいって訳じゃない。
そのあとだ、こいつがこんなんなのは。いつもよりちょっと、いやかなり?不機嫌だったからとりあえずほっといてみたけど、どうやらそれが気に障ったらしい。
ずっとホールドされてる。退けようと思えば出来るだろうけど、滅多に怒らない沢村だし、ちゃんとあやしてやんないと後がめんどくさい。だから放置してんだけど。そろそろ寝たい。疲れた。
「沢村、もう寝ようぜ。明日も朝走んだろ?」
「いやっす」
「早く寝ねぇと身長伸びねーぞ」
「先輩より4センチ高いし」
「マジ殺す沢村ぁ!!」
とりあえず技をかけた。いつも決まらないけど。
「痛い痛い!先輩おちついて!話し合いやしょう!」
沢村がバシバシ床を叩いた。一応うちの大事な戦力だし、投手なので解放してやる。目に涙を滲ませながら沢村が肩をさすった。
「うー…ひどいっすよ先輩」
「テメーが悪い。つか何に怒ってんだよ。いきなり抱きついてきて離れねぇし」
「…………」
「おら白状しやがれ。もっぺん技かけんぞコラ」
「あのですね…」
技は決まらなくてもそれなりに痛いようで、またかけられるのが嫌なのか、沢村が渋々と言った様子で話し出した。
「先輩最近ずっと、その…御幸先輩といるなって…」
「おーそりゃ最近ミーティングよくしてっからな」
「それが、その、…いやだなーって…」
余程言いにくかったのか沢村が膝の上で握りこぶしを作ったまま俯いて目を右往左往させる。
それと反対に俺は言ってる意味がよくわからずに沢村を見つめてしまった。
「なにが?ミーティング混ざりたいんか?」
「そうじゃなくて!」
「じゃあなんだよはっきりしねぇな」
「せ、先輩が全然構ってくんねぇから、いやだなーって思ったんす!」
………何を言ってんだこいつは。機嫌が悪いってそれのせい?なんだよそれ、
「お前こそいつまでも自主練して帰ってこねーじゃん」
「だから、今日は」
「そうならそうと早く言えよ。邪魔しちゃわりぃと思ってほっといたのに」
俺だってずっと我慢してたんだよ、そう言ってやったら沢村が目を少し見開いて、イノシンみたいに飛びついてきた。
「ってぇよこのバカ!」
「さーせん!でも嬉しかったからつい!」
へへへって笑いながら初めより強く抱き締められる。相変わらず重かった。
「先輩明日は?ミーティングない!?」
「ねぇよ」
「じゃあ俺、いつもより早く練習上がるから!いっぱい話して、そんでそんで」
「わかったから。落ち着けって」
言ってる自分もほんとは嬉しくて仕方がない。
だって明日はこのバカとバカみたいにはしゃげる。
なんだか遠足の前の日みたいだ。こんなことでテンション上がるとか、俺ってまだまだガキだな。
苦笑を漏らしてもう寝るぞ、と沢村を促した。自分の興奮がバレないように。
(先輩まだ起きてる?)
(おー…)
((…寝れねー…))
end
興奮して目がさえたふたり乙
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