ぎゅーって抱きしめて?



ふと目が覚めると3時だった。嫌な時間に起きたなと思うも、再び寝つくことができずに携帯をいじる。 といっても野球以外に特にやることのない沢村には携帯などただの連絡機器。


(…どうすっかなー)


とりあえず外に出ようと思い、同室の先輩を起こさないように抜き足差し足で出ていく。一応財布と携帯を持って出た。


自販機の前まで来ると当然のことながら誰もいない。

「おい、」

「ぎ、」


いないと構えていった沢村があからさまに肩を跳ね上げ、叫びをあげそうになったのをその人が押さえた。


「おとなしくしろ、俺だ」


沢村が落ち着いたのを確認して手を離す。
自販機の明かりに照らされた顔は、凶悪ながらも見知った顔だった。


「く、らもちせんぱい…?」

なんでここに、と言う疑問が涙と一緒にこぼれてきた。驚きすぎたのか、倉持だったということに安堵したのか。


「泣くなっつの」

「だっていきなり、っく…オバケかと、おもっでぇ…っ、」

「悪かったって」


慰めるために抱き寄せて背中をさすってやる。しばらくすると、幾分落ち着いたようすの沢村が口を開いた。


「先輩寝てたんじゃないんすか?靴あったし…」

「目が覚めたんだよ。だったらお前が出ていこうとしてたからまたオーバーワークしてんのかと思って」

「…心配してくれたんすか?」

嬉しく思ってそう聞くと、ちげぇといつものように返ってきた。

「副キャプテンとしててめぇを見張ってんだよ」

この言い訳もいつもで、それがなんだかおかしくて笑うと、なに笑ってんだとほっぺたをつねられた。


「ふへへ、」

「きもいぞ沢村」

「先輩、いつもすいやせん。ありがとうです」

「ほんとだぜ全く」



普段厳しい倉持が、本当は優しいことを知っている。恋仲だからといって練習中に沢村を甘やかすことはしない。 けれども人一倍沢村を気にかけているのも倉持で。見張りと言う建前でいつも自分を見守ってくれている倉持が好きだ。なかなか言葉にできないこれらを、いつか素直に伝えられたなら。


「…先輩、俺今オラフっす」

「は?」

「ぎゅーって抱きしめて?」

「……そーゆうことかよ」


しゃあねぇな、そういってまわされた腕に幸せを噛みしめる。自分よりも低いはずの身長差など微塵も感じさせない倉持の体格に感心する。

(まだまだだなぁ、俺)


悔しさにも似た尊敬。いつか対等に語り合える日が来るまで。


しばらくは、この甘えを許してもらうことにした。

「先輩、ぎゅーって抱きしめて!」

「へーへー、仰せのままに?」



俺がぎゅーって抱きしめることができる日が来るまで。






先輩、



ぎゅーって抱きしめて!



end


オラフかわいいよぉお!
沢村もかわいいよぉお!
大人なもっち先輩かっけぇよぉお!



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