気づいて





沢村栄純。俺の恋人。犬。おもちゃ。後輩。


今日も元気に走り回る。(主に買い出し)
今日もうるさく吠える。(主に御幸に)



いつも元気な俺の恋人は、今日も元気なはずだった。昼までは。






「ん?…あれ、ここは…?」
「起きたか」
「倉持先輩…?」


バッティング練習をするために打席に立った沢村に、マシーンの球が命中。ちなみに頭。そこそこに速い球だったが、頭蓋骨をやるほどではなく、脳震盪とすり傷、たんこぶに痣で終わった。しかし頭は頭、痛くて当然。そのまま意識を失って倒れた。倒れる際に足首も捻ったようで、今は湿布が貼られ、包帯で固定されている。少々大袈裟だが、意識なく捻ったのでかなり痛むらしい。転倒の際に肘も擦りむいている。

「具合はどうだよ?」
「ちょっと頭痛が。ぼーっとする…」
「そうか、じゃあ大人しくしてろよ」
「はい…。先輩行っちゃうんすか?」
「?うん。なんだよ」
「いや、なんでもないっす」
「ふーん?」


よくわからないが、特に用事はないらしいので医務室のドアに手をかける。

「じゃあまた来てやっから」
「………」
「沢村?」
「先輩、寂しい」


え、てなった。なんで?て疑問も浮かぶ。
とりあえず「そうか」って返して出ていこうとした。

「倉持先輩!」

勢いよく名前を呼ばれてびっくりする。
つか起きるなよ、安静にしてろ。

「っ、寂しいから、い、行かないで、ください…」


あぁ、そーいうこと。


ようやく理解した倉持は、にやにやする口を隠しもせずに沢村のもとへと戻る。
「寂しいのか、沢村」
「、だから!そういってんだろ!?」
「お前回復したら殴るからな」
「ごめんなさい」


優しく触れるだけのキスをしてやると、照れながらも嬉しそうにはにかむ沢村。つられて倉持もはにかむ。
「先輩よく鈍いって言われません?」
「いや?鋭いって言われるけど」
「そっすか」
「うん」


沢村がちらちらと倉持に視線を寄越す。

「なんだよ、俺の顔になんかついてんのか」
「…………たい」
「あ?はっきり言えよ」
「もう一回!キスしたい!!」
「ならそう言えよ」
「(気づけよ、この鈍感!)」

再びしてやると、また嬉しそうにするもんだから、でこやら鼻やら顔中にしてやった。
たんこぶにしてやると「いたい」何て言いながらも嬉しそうにする。

歯止めが利かなくなりそうだったので、とりあえずベッドの横の椅子に座る。 さすがに怪我人を襲うほど鬼畜でもない。

「沢村、俺監督に報告してくるから、そろそろ行くわ」
「え、なにを?…ですか」
「お前が起きたこととか状態とか。それにまだ練習終わってねぇし」
「そう…すか」

しょんぼりという表現がぴったり合うような沢村の表情に、倉持は後ろ髪を引っ張られる。

「練習終わったら迎えに来るし」
「はい…」
「………あーもうわかった!あと10分!あと10分だけ居てやる!して欲しいことしてやる!だからしょげんな!」
「ずっとは…」
「却下」
「先輩冷たい…」
「そんかわり、部屋戻ったら抱き締めてやる」
「!!ほんとっすか!?」
「男に二言はねぇんだよ」

きらきら目を輝かせる沢村に、苦笑して「じゃあ行くから」と言って席をたつ。
「あと10分は!?」
「あ、そーだった」

椅子に座り直すと、沢村が安心したように笑った。
「つかお前元気じゃん」
「約束は約束!男に二言はねぇんでしょ」
「ちっ」
「先輩俺といんの嫌なんすか」

いきなりのぶっ飛んだ質問に倉持が首をかしげる。
はぁ?と思わず口に出た。
「嫌ならここまで世話焼くかよ」
「でもさっきから出てこうとしたがるし」
「そりゃ襲いたくなるからだろ」

しばらく固まったあとに、「そうですか」と言って沢村は顔を赤らめた。

そのままなんだか気まずい空気が流れる。
といっても、沢村が意識しているだけだが。

「10分経ったぞ」
「うぇ!?」
「何驚いてんだよ」
「いや、はい…いってらっしゃい、です」
「いってきます?」

今度は本当に出ていった。
倉持が出ていったドアを見つめて、寂しいような、気恥ずかしいような気分になる。


(…寝よう)


さっきは意識しすぎて変なことを考えていたために変な声が出てしまい、そのせいで貴重な10分があっけなく終わってしまったことを後悔しながら布団にもぐる。
(こーゆうときは鈍くてよかったな…先輩)



起きているといらんことを考えてしまいそうだと、夢の中に飛び込んだ。





end

鈍い倉持。でも他のことは鋭い希望。
いつもより沢村が積極的だった気がする(当社比





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