屋上日和
地球温暖化の進む5月は、意外なほど暑い。
ここ3日ぐらい雲を見ていないような気がすると、倉持は思った。
古典の教師が何か言っているが、飯を食ったあとの授業ほど眠いものはない。
皆、当然のごとく頭が落ちている。
倉持はというと、普段の練習で勉強どころではないので、赤点をとらないために授業は真面目に聞くようにしている。
それでもやはり眠いようで、時々うとうとしてしまう。
まぁそこまでして起きる本当の理由は、監督にチクられたくないからだったりする。
(そーいや沢村、この前怒られてたな…)
思い出すのは馬鹿よろしく馬鹿みたいに笑う後輩。
1ヶ月前に所謂恋人というものになったが、特に進展はしていない。
というより、前と何も変わらない。
それも練習漬けの青道野球部だからだろう。
どこかに出掛けることもなければそーいった話も沢村とはしない。
そーいった空気にもならない。
前と変わらず先輩後輩。パシリで倉持のおもちゃである。
やはり眠くて、ぼーっと窓の外を眺めていた。
(ほんと真っ青だな)
沢村みたいだと思う。
清くて、元気なところが。
そこでふと倉持は気づく。
(俺ずっと沢村のこと考えてんな)
そんな自分に苦笑いをこぼすが、やっぱり沢村のことを考えていることに倉持は気づかない。
あいつは今ごろ爆睡してんだろーな、とか。
暇を持て余して携帯を見ると、メールを知らせるランプが光っていた。
開くとそこに出ていたのは、さっきから嫌と言うほど頭から離れなかったあいつである。
(……なんだ?)
メールを開くと、短く一言。
――倉持先輩、明日一緒に昼飯食いたいです!――
「倉持先輩!お迎えに上がりやした!」
「おう、ごくろう」
頭を撫でてやると、沢村が嬉しそうに笑う。
最近癖になりつつある行動のひとつである。
「先輩、明日も一緒がいいっす!」
「明日?いいけど、お前金丸とかと食ってんだろ?いいのかよ」
そう言うと、沢村は頬をかきながら言いにくそうに視線を泳がす。
「なんだよ」
「いや、えっと…」
「はっきりしろようぜぇな」
「えっと、俺がずっと倉持先輩とご飯食べたいーって言ってたら…」
―「だったらとっとと誘っていけよ!うじうじうぜぇ!!」―
「って言われて…俺断られると思ってたら、OKもらえたから、金丸に報告したら…」
―「んじゃとっとと食いに行けよ!てかずっと一緒に食ってろよ!うぜぇから!」―
「って、言われました…」
「そうか…」
この誘いは金丸がいなければなかったものだと知り、心の中で感謝する。
出来た後輩である。
それよりも驚いたのは。
「お前ずっと飯食いたいって思ってたのかよ?」
「いえす…」
これである。
普段はあまりわからない沢村からの好意を感じて、顔がにやける。
「ちょ、先輩何笑ってんすか!」
「ひゃは!お前俺のことほんと好きだなぁ?」
「好きですよ!」
何か問題でも?といいたげに、そう言いきった沢村に拍子抜けする。
いつもならこういう場合、否定してくるのに。
けど、自分が言ったことにあとから気づき、顔を赤面させている。
「、ほら!早くいこうぜ!昼休み終わっちまう!」
「おう…」
倉持の腕をひいて、沢村がずんずん進む。
慌てたせいでタメ語になってしまった沢村に、倉持は気づかない。
やはり男の手だなと、改めて認識した。
やはり好きだなと、赤くなった頬が物語っている。
二人笑いながら、屋上に向かった。
((…やっぱ暑い…))
end
よく屋上とかで弁当食うシーンあるけど、実際屋上開いてないよね(笑)
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