泣き虫ふたり






「なぁ沢村、もう別れようぜ」













「え?」





それはいきなりだった。
なんで、なんて聞く間もなく、倉持先輩はさっさと行ってしまった。





風呂にはいって5号室に戻ると、先輩はいつも通りゲームに夢中。


「た、ただいま帰りました!」

「おーおかえりー」


あれ?普通?
んん?これってどうなんだろう。俺たちってもう別れてんのかな。
いやでも、てか、



―――別れたくない…!


「せ、先輩!」
「んー?」
「あの、俺、別れたくありやせん!」
「………。」
「あ、あの、せん「俺も、」
「?」
「俺も、別れたくねぇよ」
「え?」



じゃあなんで、聞こうとしたら、先輩の声に遮られた。


「けど、もう別れる。これからは、先輩後輩だ。」


言われた瞬間、味わったことがないような感覚に怖くなった。
心臓がぎゅうっとなって脈拍が上がる。
聞きたいことはあるのに、喉が貼り付いて音にならなかった。











あのあとはどうなったのか覚えてない。気づいたら朝で、倉持先輩が朝練の準備をしてた。


「…お、おはよーございやす…」

「あーはよー。早く準備しろよ」

そう言って黙々と支度を進める。


本当に、ただの先輩後輩にもどってる。
本当に、もう別れちゃったんだ。

いつも起きたら寝癖を直すふりして頭を撫でてくれた。でも今日はそれがない。

たったそれだけなのに、なんでこんなに寂しいんだろう。



「…先輩、好きです。俺と付き合ってください。」


気づいたら口から出てた。
あーあ、女々しいなぁ俺って。


「しつけぇぞ沢村」


やっぱり、そーなるよな。

「すいやせん…」






朝練はうまくいかなかった。


きっと先輩うざがってるだろうな。それとも呆れちゃった?






日が沈み、朝練での失敗を取り戻そうと自主練に熱を入れてたら、いつの間にか皆いなかった。


「そろそろ上がるか…」


そう思った瞬間に一気に疲れが押し寄せる。
なんとか部室までたどり着くと、まだ明かりがついてた。


(…?誰がいんだろ)



近づいて入ろうとしたら、

「すきだ」

(……え?)


倉持先輩が、御幸にコクッテタ。


あぁ、なるほど。先輩、御幸のことが好きになっちゃったんだ。


理解するより前に、涙が溢れた。

そんで次に来たのは、



激情。



バンッて勢いよく部室のドアをあけた。
中にいた二人が一斉にこちらをみる。


「げっ、沢村…!」

また胸が痛んだ。


そんなげっ、て言わなくても。そんなに俺のこと嫌いになっちゃったんですか先輩。確かに告白の邪魔したけど。現在進行形で。


「ひどいっす、せんぱい!御幸のこと好きになったんなら、そういってくれたらいいのに!」


「「…はぁ!?!?」」

二人が同時に叫ぶ勢いで声を出した。

「いきなり別れてもう乗り換えるんですか!俺の方が先輩のこと好きなのに!こんな変態より絶対俺の方がいい男だ!!」

「おい落ち着け沢村…」

「おいこら沢村、変態とはなんだ変態とは」

「お前のことだ御幸一也!だいたい、俺の何がいけなかったんだよ!?なんで…」

もうほとんど何言ってるのかわからなかった。泣いてるのと一気に喚いたので呼吸が苦しかった。
でも止めれなかった。


「いやだ!俺のせんぱいとんなよ!御幸のばかっ!めがね!あと、あとっ…」

「沢村、」


気づくといつの間にか倉持先輩が至近距離にいた。

「せんぱっ…!」

優しく涙をぬぐってくれたから、余計に泣けてしまった。


「沢村………てんめぇ、ふざけんな!!」

「むぎゃ!?」

「なんで俺がこんな変態エロ眼鏡のことなんざ好きになるんだよ!ありえねぇ!!」

そういって俺の両頬を思いっきりひっぱる。

「いだだだだだ!!」

「てかみんな俺の扱いひどくね?」

「「日頃の行いだろ」」

「おいそこ!息を合わせるな!!」




とりあえず先輩からの攻撃は収まったみたいだ。


「あの、先輩、御幸のこと好きじゃないならなんで…。俺そんなに嫌なことしましたか?」

「ちげぇよ」

そういうと居心地悪そうに頭をかく。


「沢村のことが好きすぎて大変だから、離れようとしたんだけど、無駄だったっぽい」

「御幸、てめっ!」

「そうなの?」

「………。」


これは肯定にとっていいんだろうか。

「沢村、あーっと…なんだ、その…俺らは男同士だし、この先良いことの方が少ない、と思う。けど俺、わりぃけど今じゃなきゃ離してやれねぇ…から、逃げるなら今のうち?みたいな」

「逃げやせん!俺だって、離してあげません!離れませんー!!」


「はっはっは!なんだお前ら、大丈夫じゃん」


じゃあ邪魔者は退散するわ、つって御幸が部室から出ていった。


「先輩、好きです。俺と付き合ってください。」


「それは俺が言うべきだろーが」

「でも倉持先輩は俺がどんだけ先輩のこと好きかわかってないみたいなんで!これでいいんです!」


「…悪かった。俺も好きだ」

そういって頭を撫でる手が愛しく感じた。


「泣くなっての」

「せんぱっ…、ひっぐ、すきっうぇっ…すきっすっ…!」

「ひゃは、ほんとお前泣き虫な」






久々に感じた先輩の体温と抱きしめる力に、また泣いた。
抱きしめ返すと、また先輩が、ひゃは、って笑った。


少し鼻声だった。








end






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