「やあ円堂守、俺は天使。わざわざこの俺がお前の願い事を1つだけ叶える為だけに来てやったぞ、感謝しな」
突然目の前に現れた奇抜な格好をした人物は、まくし立てるように言い放った。どくんどくん、と心臓が警鐘を鳴らす。コイツは、
「……無神論者なんで、悪いんですけど他を当たってください」
やばいやつだ。
そいつと出会って30分、俺は自宅の自室で正座をさせられていた。目の前には宙に浮いて不機嫌を通り越して憤怒している表情の(自称)天使。黙っていれば美しい顔を歪ませている。どうしてこうなった。
「お前の願いを1つ叶えてやる、宗教とか魔法とかでもない。俺は天使、それだけだ」
ブスッとしたままではあるが、(自称)天使は俺の願い事を叶えてくれるらしい。それは後でいい、それ以前に疑問がある
「なんで、浮いてるんだ?」
「天使だから」
「なんで、俺の願いなんだ?」
「俺が決めたから」
「なんで、俺正座させられてるんだ?」
「ムカついたから」
間違いなくこいつは天使ではない。きっと悪魔なんだ。俺の願い事を叶えて対価に魂を奪うつもりなんだ!ふわふわ浮いている(自称)天使をみて、俺は密かにこいつの企みを邪魔してやろうとほくそ笑む。
「そういえば、天使さんはどうして名前を知ってるんだ?」
「…天使さんって気持ち悪いなあ…俺はミストレーネ・カルス、ミストレでいいよ」
ニッと到底天使にはみえない笑顔をみせた(自称)天使のミストレは俺の部屋を漂っていた。とりあえず、人間でないことは認めよう。
「…ミストレは今までどんな願い事を叶えたんだ?」
「金と言えば7代先まで遊んで暮らせる大金を!女と言えば女神も劣るような絶世美人を山ほど!知識といえばこの世の森羅万象をその脳みそに!天使に叶えられない願いはない!老いたくないというのなら不老の呪文を!」
ミストレは最早、悪魔も逃げそうな形相で身振り手振りで演説をした。確信した。こいつは天使ではない。よく考えてみれば服装だって黒いし、髪型は悪魔の角のようだ。ゲラゲラと楽しそうに過去を振り返って笑うミストレに、不信感だけが増していく。
「さあ円堂守、お前の願いは何だ?」
口角を上げたミストレが、白磁のような手を差し伸べた。怪しく光る瞳の意図はみえない。
俺は小さく息を吸って、口を開いた。