円堂♀
お洒落よりサッカーの方が好きなのは事実であるが、私にだって一握りの乙女心はある。
最近は転んだらちゃんと消毒をするし、日焼け止めだって時間があれば塗るようにしている。キツくて着けたくなかった下着もちゃんと秋に選んでもらって買った。クラスのお洒落な女の子からすれば常識なのだろうけど、私にすれば大きな進歩である。
「最近変わったね、守ちゃん」
秋が楽しそうに笑う。理由を知っているのに少しだけいじわるだ。答えるのが恥ずかしくて黙っていれば、秋はまた笑った。
「ふふ、まさか守ちゃんが恋をするなんて思わなかったから」
そう、恋をしたからと自分で言うのは恥ずかしいものであるが、真実である。
「不思議だよな、今までと変わらない生活なのに」
今までと同じ生活をしているのに、恋をしてからは全く違うようなのだ。サッカーに集中したいのに背中を追ってしまう、鬼道に叱られることもしばしばだ。
「サッカーしかみえなかったのに」
クルクルとリップクリームを出してみたりしながら呟けば、秋はやっぱり笑う。なんだか秋は笑ってばかりだ
「それが恋よ」
秋は恋をしたことがあるのだろうか。日焼け止めを比べてみている横顔を眺めれば、こちらを向いた。
「恋かあ」
こんなキラキラしてピンク色で可愛らしいお店は初めて来た。周りをみればみんな可愛くてお洒落をしている。きっと恋をしているんだと予想できた。
恐ろしい人数が恋をしていることになる。今も誰かが誰かの為に可愛くお洒落になろうと努力しているのだ、もちろん私もその中の1人であるが
「でも、楽しいでしょう?」
「……」
集中力は落ちるし、泥まみれになった後は罪悪感が沸く。しかし、褒められたり、姿が視線に入るとドキドキして心臓がきゅうっとなる。強いやつとサッカーをするドキドキとは違うドキドキ、つまりは楽しくてわくわくする。成る程、恋は楽しいものらしい
「秋は誰かに恋をしてるのか?」
「内緒!」
笑う秋の瞳は優しい、最近あいつもそんな瞳をするようになったのを思い出した。やはり秋も恋をしているらしい
「…じゃあ、また教えてくれよ?」
答えない秋は口元で笑ったまま、ゆっくり頷いた。するとそのまま化粧品に目を通した。私の角度からでは顔はみえないが、秋は少しだけ小さな声で呟いた。
「楽しいね、守ちゃん」
「ああ、楽しいな」
ピンク色に浮かれた空間で、秋が泣いていたことを私は知らない。
Title:夏純