「      」

僕はいつだって反省している。僕が生まれなければ泣かずに済んだ人がいた。僕が存在しなければ僕が他人を害することはなかった。そう、僕が生きていれば誰かが僕のせいで悲しくなるのだ。そう考えたのはもうずっと昔だった気がする。だからとにかく他人に迷惑をかけないように、借りを作らないように、他人を泣かせない人になろうと努めていた。そんな事を日々考えていれば当然数回は死を考えるようになった。いらないのならこちらからいなくなればいい、高い場所から見下ろす景色に映るのば自分の死体だ。飛び降りろ、沈み溺れろ。頭のどこかで喚く声がする。ノイズ

しかし僕が命を絶とうとすると、それまで騒々しかった音は止む。そして波のない海のように静かになった身体に、柔らかくて暖かくて優しい声が響くのだ。その声はなにを言っているのかわからない。しかしその声を聞くと死に向かう思考は途絶える。死にたくない本能かと笑いたくなったが、その声は僕ではなく他人が僕の脳に話し掛けているように不思議な力を持っていた。だから僕はまだ生きているのだ。


「こんにちは」

そんな日々を送っていたある日。すれ違いざまに声をかけられた。僕の外見は女の子にみえるからいつものナンパかと思い無視しようとしたが、身体が止まった。声だ。あの声だ。声の持ち主は僕をみると微笑んだ。その笑顔を僕は知っている。いつも近くにいて、僕を死から遠ざける声。

驚いて何も言えない僕とは対照的に、声の持ち主は数回頷いて逆の方向に歩き始めた。止めようとする僕の声はでない。声の持ち主は僕の腕をすり抜けると、やはりいつもの声で言葉を紡いだ。僕は始めて言葉を聞いた。瞳から零れる涙すら拭えず立ち尽くす僕を置いて声の持ち主は消えた。しかし、すぐに会える予感がした。だから、それまでは彼の言葉を胸に留めて生きようと思う。





 
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