相容れぬままそれらは存在して、相容れぬままそれらは消え去っていく。ぼくはきみと触れ合いたいのに世界はどこまでも排他的だ





分からないことばかり。宙を泳ぐ魚はいない。深海でサーカスは見れない。屋上から飛び降りると死んでしまいます。世界は無関心な癖にたくさんのルールを作った。雨が降る晴れた丘で君とダンスがしたい。うさぎとライオンが手を繋いでそれを見守る。素敵なことに違いないのに、大人はそんなものは有り得ないと否定する。世界のルールは人間をとても退屈な生き物にした。1+1=2だなんて枠組みの社会はうんざりだ。

「涼野は面白いな」

呟いたら円堂はふむふむと相槌をうちながら賛同した。南雲やヒロトに言っても否定されるだけであるが彼は違うらしい。1+1の答えの謎。解けたら世界は変わるだろうか。進まない日誌に苦戦しながらも素晴らしい世界に思いを馳せる。

「きみは1+1の答えは何だと思う」

「うーん」

鉛筆を投げ置いて円堂が腕組みをした。サッカーのことしか頭にないのに考える姿はなんだか滑稽だ。少なくとも、数学的な答えは望めないだろう。眉間に寄る皺を眺める。きっと寄る皺と脳みその皺は比例しないに違いない

「難しいな」

ギブアップした円堂が机に伸びる。答えが聞けなくて残念な気持ちと、大人のように真顔で2と答えなくて良かったという安堵が入り混じる。もどかしい気持ちをぶつける為に再びガリガリと日誌を書き綴る。…1限は先生の後ろで真っ白な鯨が泳いでいた。2限には梨になって、3限で蟹になった。そんなことを書けば再提出は免れない。想像力は小さい子どもにとっては重要だが、大人になるにつれて厄介になる。私は仕方なく言葉を変えながら報告をする、知った所でなにもない情報だ。


「たくさん数字があるのに、答えが1つってつまらないしなあ」

ぽつり、日誌の端に書いた鯨をみながら円堂が呟いた。少し驚く。それは大人が一番嫌う答えだったから。紙に書いた鯨が泳ぐことはなかったけれど、円堂は鯨を指を撫でた。その手をとって踊りたい。日誌の文字は鯨に飲み込ませてしまおう。ぼんやり考えては現実が蘇る。再提出が舌を伸ばしているのだ。


「鯨、上手だな」

円堂はまだ鯨を眺めている。私はそんな円堂を眺める。正確には円堂の背後。鯨。

「…いつも、見ているから」

大人は信じない。鯨は空を泳いでいるのに。大人はみえない。鯨は梨になるのに。円堂にはみえるだろうか?私はゆっくり口を開けて蟹を吸い込む鯨を、みている。



TextTop/夏純

 
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